「至急用意します」
 篠原さんが荷物の中からノートPCを取り出して、冴島さんのところに持ってくる。
「契約している清掃会社の顔写真付き一覧です」
 冴島さんは画像をめくりながら確認している。
「ほら、影山くん。あなたが一番多く見てるはずなんだから、一番真剣にみなさい」
「は、はい」
 何枚かめくっていると、テントにやってきたあの女性そっくりなひとがいた。
「これ、これです」
「|七尾(ななお)|美紅(みく)…… ふぅん。まあ、名前とかは当てにならないでしょうけど、この情報は控えさせてもらうわよ」
 篠原さんが首を横に振ろうとすると、冴島さんがまた手を横に払った。
「はい」
「けど、この前も『|美紅(みく)』って名乗ってました」
 冴島さんが俺の腹に拳を押し込んできた。
「いてっ」
「はい。ありがとう。じゃあ、電力設備の除霊だけするから案内してくれませんか」
 篠原さんがノートPCを閉じて、言った。
「わかりました。案内します。こちらへ」
 篠原さんを先頭に、冴島さんと俺と松岡さんがついて階段を下りて行った。
 地下二階まで降りると、配電盤とその奥には非常用電源設備があった。
「あれ? なんか歪んでる」
 俺は配電盤の一部が、有名なダリの絵のように、溶けたように歪んで見えた。
「歪んでいる…… とは?」
 篠原さんが不思議そうに言った。
「気にしないでください。この配電盤は香川さんの証言の通り、霊を撒かれていますね」
「そう…… なんですか」
「警察の現場検証もあるでしょうから」
 冴島さんはそう言うと、カバンから小さい短冊状の紙を取り出して、さっと筆で何かを書いた。
 そしてそのまま配電盤に付けた。
「あっ、歪みが……」
 俺はじっとその短冊を見た。そして上からそっと手を置いてみる。
「取ってみてもいいですか?」
「すぐ付けるならいいわよ」
 俺は紙を取ってみた。裏にノリがついているわけでもない。
 そして同じ場所に紙を付けてみた。紙が付けられ、配電盤のゆがみが正されることによって、その紙が接着しているようだった。紙がついている限りゆがみはないが、紙が取れればゆがみが戻る。
「へぇ」
「警察が調べるときまで、これははがさないでください」
「警察がきたらはがすんですか?」
「警察の人が剥がしてくれます。警察の調査が必要なんです」
「はあ」
 篠原さんは不安げな表情を見せた。
「お札が貼ってある間は霊による停電はありませんからご心配なく」



 俺は冴島さんの車で家まで送ってもらうことになった。
 今回の事件で疑問に思っていることをたずねた。
「結局、ゾンビは何だったんですか? 香川さんが持ち込んだわけではないんでしょう?」
窓の外を見ながら、俺は香川さんの顔を思い浮かべていた。
「そうね。香川じゃないとすれば、清掃員が持ち込んだ可能性が高いわ」
「……なんのために?」
「最初に話してなかったっけ? このデータセンターを使っている企業が業績が下がってるって。たぶんライバル会社がそれを目的にしかけたんじゃないかしら」