目的の高さに達した、と思った瞬間だった。
「読みが浅いわ」
 三崎が、両手で鉄パイプを振り上げていた。
 飛び出てくる杭を叩くように、タイミングを合わせて振り下ろす。
 亜夢は慌てて腕を交差させ、振り下ろされる鉄パイプを受け止める。
「うわっ……」
 寸前でパイプの勢いを殺して腕で受け止めた。
 しかし今度はこの高さから落ちていくことになる。
 全力で着地の為に、超能力で空気圧を高めてアシストする。
 着地の時にバランスを崩して、背中を打ってしまう。
「完全にやられた……」
 肉体的にやられたダメージよりも、読みが足りなかった自分が悔しかった。
 あの場所に立てこもられたら、こちらからしかける術がない。
 何か方法はないだろうか、亜夢は考えた。透視でも出来たら…… X線とかで見ている世界のように、この死角がなくなれば。
『何度も言っておろうが』
 後ろから金髪の少女が現れる。
『ハツエ……』
『常識を超える事ができるのが非科学的潜在力なんじゃ。それにやる前じゃ。やってみんうちから諦めんことじゃ』
『はい』
 亜夢は上の通路に隠れている三崎を見通すつもりでじっと見つめた。
 通路に上がるには垂直につけられた梯子をつかうしかない。さっきの扉のノブを触れたときのように、こちらが触れば思念波世界に引きずり込むつもりだろう。そして物理的に飛び上がってしまえばさっきの二の舞い。
 見つめたからといって、透視出来たり相手の考えが読めたりするわけじゃないのね。亜夢は見上げながら、そう思った。
「そうか……」
 亜夢はため息のような、小さい声でそう言った。
 梯子に近づき、それに触れた。
『!』
 亜夢が下を向くと、そこに深い穴が開いていた。
 見上げると、亜夢の指一本だけが梯子に掛かっていて、そこに全体重がかかっていた。
 ぶらり、と体が揺れた。掛かっている右の指が痛くなってくる。
 本当に全体重が指先に掛かっている……
 亜夢は非科学的潜在力を使って、下から風を吹かせ、指の負担を減らした。それどころか、腕を動かしていないにも関わらず、一つ一つ、梯子を上に移動していた。
『さあ、これどうなる』
 明らかにここは思念波世界だった。
 本当に風を吹かせているわけではなく、思念波世界の中で理屈が通ればいいのだ。
 亜夢はその思念波世界の中である人物を探していた。
『そんなペースでは永久に上がってこれないわ』
 三崎がそう言った。亜夢が瞬きすると、梯子の先がずっと先に延びていた。下の穴の大きさも広がり、より深くなっている。
『さあ、どうするの乱橋亜夢』
 亜夢は見える世界のなかに、人物の影を探していた。
 さらに何段か梯子を上がった時、亜夢は非科学的潜在力で勢いよく体を跳ね上げると、梯子の隙間を蹴り込んだ。
「痛い!」
 思念波世界が崩れ去ると、亜夢は梯子の上に達していた。そして、正面には三崎が額を押さえて倒れていた。
「思念波世界だけではなく、本当に梯子をのぼっていたというわけか」
「梯子の段数は数えてなかったけどね」
「何…… 失敗すればこの高さを落下することになるのにか」
 三崎はゆっくりと立ち上がった。
「私が思念波世界を使った攻撃だと思うなよ」
 そういうと、手首を合わせ、両手を開いた形で前に突き出した。