ちょうど体温計から測り終わりの音が鳴った。
「ね?」
 看護婦さんはわざわざ顔を近づけてきて、俺の体温計を取り出す。
「それよそれ、なんでそんなに顔をくっつける必要があるの?」
 冴島さんが病室に入ってくる。続けて、中島さん、松岡さんが最後に入ってきて扉を閉めた。
「あっ、この人が録音の時の看護婦さん?」
 中島さんが言って、すぐ口を押さえた。冴島さんが中島さんを振り返る。
「えっ?」
「いえ……」
 中島さんが視線をそらした。
 看護婦さんは体温を記録すると体温計を布で拭ってケースに戻した。そして扉の方へ進み、出ていく直前に俺に微笑みかけた。
「また来ますね」
 扉が閉まるのを確認したように、
「二度と来るな」
 と、言って冴島さんが手ではらうような仕草をした。
「そんな言い方しなくても」
「あんたが隙を見せるからあんな態度になるんでしょ?」
「所長、あのそのくらいにして、本題にはいってください」
 割って入るように中島さんががそう言った。
「影山くん。明日、退院したら、一緒に来て見てほしい家があるのよ」
 そう言う中島さんは、タブレットを持って見せた。
「ここですか?」
 そこには地図が表示されていた。
 中島さんが操作すると、家の門が表示された。
「ここ、なんだけど」
「……」
 その映像に見覚えがあった。
 黙っていると、冴島さんが口を開いた。
「昨日の解析機に残っていた映像と似てる。ということは、影山くん。あんた見たってことだよね? これどこ?」
「……」
 また黙っていると、冴島さんが何か言いかけた。そこを中島さんが止める。
「所長、そんなに焦らないで。影山くんに説明しましょう。まずは住所。これは過去のある事件を伝えるネット記事から見つけたの。今はそのネット記事はなくなってるけどね」
 俺はうなずいた。
「だから、この門の映像は実際にこの住所にある風景よ。で、もう一つ。昨日の解析機で分かったこと。一つは影山くんには複数の霊が憑いていること。数もよくわからなった。多くは深いところにいるようで、解析機でしっかり判別できるほどの霊力が検出できなかったの。だからこれは推測ね。もう一つは、さっきの門の映像。あの機械は霊力を解析する機械であって、記憶を読み取るものじゃないの。けれどどうも影山くんの記憶らしいものが見えるわけ」
 冴島さんが中島さんの口を押える。
「あなたの記憶は予想だけど、霊が抑制してるみたいね。記憶消しの霊とでもいうべきもの」
「えっ、じゃあ、冴島さんがそれを除霊してくれれば、俺…… 俺記憶が……」
「ダメ。除霊したら記憶ごと消えてしまうわ。この問題の解決方法は、あなたが霊から奪い取るしかないの」
 そう言われて俺は少し考えた。
 俺の記憶を霊が抑制している。そのせいで、霊を解析する機械で俺の記憶が見えてしまった。
 と言うことは、ここにいる人たちは、俺の記憶を……
「冴島さん。ちょっといいですか」
「何よ?」