中島さんの手を引きながら走り始める。門から屋敷に通じる通路に出ると、そのまま門の方向に走った。
 霊の群れも、俺たちを追いかけるように通路に出てきた。
「影山くん!」
 俺はGLPを屋敷方向に構えた。
 竜頭を回して『助逃壁』に合わせる。
 十分に霊を引き付けると、龍頭を押し込んだ。
 GLPから光る壁が飛び出し、霊をひとまとめに押しやりながら、屋敷の方向へ進んでいく。
「やった」
 俺は中島さんの方を追いかけて、そのまま敷地から逃げ出した。
 中島さんは門の横の扉のノブに紐を括りつけて固定した。
「これで、追ってこないかな?」
 中島さんも、俺も息が切れていた。
「屋敷の外には出てこないですよ」
 俺はなんとなく、この屋敷の壁や門があの霊を閉じ込めている、そう思っていた。
「なんでわかるの?」
「……なんとなく」
「楽観的すぎない? どっかに隠れたほうがよくない?」 
 屋敷の門の前の道の反対側に、俺が住んでいるアパートがある。
「よければ、そこ、俺のうちなんですけど?」
「えっと……」
 頭からつま先までをジロジロ見られた。
「わかった。とりあえずなんでもいいわ」
 俺たちは急いで道を渡って、アパートの階段を上り、俺の部屋に入った。
 狭い玄関を上がって、俺の狭い部屋に入る。
 暗い部屋に先に入っていき、灯りを点けた。
 部屋の全体が見える。ロフトがあって、上るための梯子がかかっている。
 中島さんがいきなり指をさして言う。
「……なにこのテレビ?」
「いや、別に。いろいろな用途に使うから、大きい方がいいかなって」
「部屋の半分、いや一辺を全部占めてるじゃない。せまくなるじゃん」
 確かに端から端近くまでテレビがある。ただ、これはスマフォもつなぐし、パソコンもつなぐ。テレビも見れば、ネットも見る。映像はほぼこれで済ましているのだ。一人で済むにはのこりのスペースがあれば十分だ。
「あと、なんで雨戸閉まってるの」
「窓、開けたことないんで」
「向こうは何があるの?」
 中島さんは雨戸に近づいて行って、内側の窓を開け始める。
「地図上から判断すれば、さっきの屋敷が正面に」
 そう聞くと、体がビクッと震えた。
「やめとこっか」
「そうですね」
「……」
 中島さんが上を指さす。
「寝床しかないですよ」
 中島さんは口をゆがめた。
「なんかないの?」
「えっと、飲み物とか食べ物とかの話ですか? それとも椅子とか座布団とか?」
「どっちも」
「座布団はないので、俺のジーンズ出しますから敷いて座ってください。冷えた水ならありますよ。けど、食うもんはないです…… いや、あった。キャベツがあります。千切りにしましょうか?」