「私、霊を集めていたのは知ってるでしょ? あれ、ある組織にやとわれて霊を集めていたの。けれど、もう抜けたいって言ったら、態度が豹変して」
「豹変して?」
「あたし、殺される。秘密を知ったものは生きて組織を抜けられないって!」
 すると、ガチャリと扉が開いた音がした。
「?」
 目の前の扉は開いていない。俺は中島さんを振り返るが、中島さんも分からず首を振る。
「うるせぇぞ、このアマ!」
「キャッ。止めてください!」
 俺は扉の外を覗き見た。
 組織の男かと思ったが、隣の部屋の住人が出てきていた。
 男は俺の部屋の扉を叩いてきた。
「こら、騒がしくするな。さっさと、この女を入れてやればいいだろうが! こっちは夜遅くまで働いて帰ってきたところなんだ。とにかく静かにしろ!」
 お前の声の方がよっぽどうるさい、とは言い返せなかった。
 俺は思い切って扉を開けた。
「話、聞くから中に入って」
 少しだけ開けた扉から、するっと美紅さんが入ってきた。
「最初っからそうしろ!」
 俺は隣人に頭を下げ、そっと扉を閉じた。
「良かった……」
 美紅さんが、ぶら下がるように俺の首の後ろに手を回してきた。
 胸を…… 胸をわざと当てて、体を動かしている、ように思えた。
「ね? 私が来て、良かったでしょ?」
 中島さんが冷たい視線を俺に送っていた。
「あの、|他人(ひと)がみてるのでやめてくれませんか」
「えっ?」
 美紅さんが後ろを振り返り、中島さんの存在を確認した。
「あっ、ごめんなさい。あちら、彼女さん?」
 中島さんは立ち上がって、睨みながらこっちに向かってくる。 
 俺は怖くなって手を振った。
「あの、あの……」
 俺を飛び越えて、美紅さんの方に近づいていく。
「どういうお知り合いかしら」
「どういう関係か説明するのは、あなたの方じゃない?」
 顔と顔が近づく。
 光の加減か、中島さんのメガネが光ったような気がした。
「彼にトンネルに連れ込まれて、胸を触られた……」
「えっ、俺、胸なんて触ってないじゃん? そっちが勝手に押し付けてき……」
「お兄ちゃん?」
 言った中島さん自身、口を手で抑え、ビックリしている。
 言い方と言うか、イントネーションのせいなのだろう。俺には聞き覚えのある別の人物の声に聞こえた。だが、それが具体的にこんな人物、というのは思い出せない。俺に妹とかがいたのか…… だめだ。家族というものの記憶がない。一年より以前の記憶がないのと一緒だ。
「……」
「妹さんか。な〜んだ。そういうこと」
 美紅さんは勝ち誇ったような顔をして、腰に手を当てた。
「妹さんはどんなに好きでも結婚できないのよ。いくら妹でも、お兄ちゃんの自由恋愛の権利を奪うことは出来ないのよ」
 何を言いたいのか不明だが、美紅さんが俺の腕を強く引っ張って引き寄せた。