現実なのか、夢なのか、思念波世界なのか……
 目を開いているのか閉じているのか、立っているのか横になっているのか。どこからくる感覚を信じていいのかわからなくなっている。
『亜夢……』
 アキナが呼びかける。
 アキナの顔がどんどん大きくなっていって、口を広げると亜夢の体を飲み込んでしまう。
 暗闇。
 そして水が流れる音がする。
 その間中、頭は上下左右に叩かれ、動かされ続けている。
 こんなに揺れていると、まともに立ち上がられない。
 亜夢は満たされた水で呼吸が出来なくなった。
『苦しぃ……』
 息を吐き切って、苦しくて死にそうだった。
 それでも体は息をしようとして、今度は水が鼻から口から入り込んでくる。
『死ぬ』
 金髪の少女が、手を差し伸べた。
 ハツエちゃん? ハツエちゃん、助けて。
 金髪の少女が分裂する。
 もう一人の少女は腕組みして言う。
『違うぞ』
『助けて、ハツエ』
『この手を掴むのよ』
『違うぞ。考え方を変えろ。概念を突き崩せ』
『助けてあげる』
『違うぞ。わかるだろう』
 手を差し伸べてくる天使のような少女と、腕組みをしてじっと見下ろしている少女。
 亜夢は手を伸ばして、少女の手を取ろうとする。
『違う!』
 手と手が触れ合う瞬間、亜夢は少女の手を叩いた。
 すると空間すべてを満たしていた水が、塵のように分解されていく。どこにも見えなかった水面が下がり、亜夢の顔がその水面の上に出る。
 天使のように見えた金髪の少女は、黒い霧に包まれた。
 目だけが、亜夢の方を睨んでいる。
『ふん、この程度で逃げれると思うなよ』
 亜夢は水を飛び出して、高く宙を舞い、ひねりながら弧を描いて着地した。
 亜夢は頭を押さえながらも立ち上がり、通路をアキナの方へ進んでいった。
「この通路を渡り切れば……」
 進もうとする亜夢の足が震え始める。
「どうして? 動いてよ!」
 亜夢は自身の足を叩き、首をひねる。
「感覚がない……」
 再び襲ってくる強い頭痛。
 干渉波の何十倍もつよいものを流している、亜夢はそう思った。この壁、この床、この天井…… すべてが発信装置なのだ。
 かろうじて動く手を動かし、手首の内側を付けて指を開く。
「光球…… で……」
 手の平の中に光が集まり始める。
 突き出した手から放たれた光球が床を突き破る。
「!」
 亜夢は急に、体が軽くなるのを感じた。
「亜夢、勝負」
 亜夢は耳を疑った。
 アキナがものすごい形相で亜夢を睨みつけている。
「聞こえないなら、こっちから行く」
 アキナは足を肩幅ほどに自然に開き、腰をすこし落として、拳を引いた。