亜夢とアキナの間には四五メートルほど間がある。そこの壁、床、天井はまだ例の干渉波を発している。亜夢から飛び込めば、またマスターと呼んでいる人物からの洗脳を受けてしまう。
 アキナはこの干渉波を抜けてこちらに来れるというのか。
 いや…… 違う。アキナはこの通路を超えたのだ。もう洗脳されている。だから、これ以上干渉波を受けても問題がないのだ。
「ねぇ、アキナ、聞こえる? 私達は戦わないわ」
 アキナなら、自身の力で|精神制御(マインドコントロール)を破れる。亜夢はそう考えた。
「アキナ? ねぇアキナ?」
「私がアキナだ」
 何かきっかけを与えれば、きっと自分を取り戻せるはず。亜夢は考えた。
「違う。ねぇ、いつものアキナはどこに行ったの?」
「私がアキナだと言っている。マスターは教えてくれた。敵は亜夢なのだと。マスターは敵を倒すまで戦えと言った」
「マスターがどんなやつか知らないけど…… 私はそいつを許さない」
 そのマスターとやらが宮下や三崎にした仕打ちは、亜夢にとってひつとして許されるものではなかった。
「亜夢、今のは矛盾してる。しらないのに許さないという……」
 とっさに亜夢はひらめいた。
「出てきてアキナ。今のはマスターが言わせた言葉よ。アキナは矛盾なんて言葉使わないわ」
「……」
「ねぇアキナ。アキナは『矛盾』なんて意味も知らないんでしょ?」
 固まったように動かなくなったアキナは、構えを崩し、膝をついてしまった。
 うつむいた顔が少しだけ上がる。
 顔にかかった髪を後ろに流す。
「亜夢…… 私だって『矛盾』ぐらい知ってるし、使うわよ」
「アキナ! アキナよね? 戻ってきたのね!」
 亜夢はアキナに駆け寄りたかったが、寸前で干渉波の装置が作動していることを思い出す。
「アキナ、残りの人質はどこ?」
「分からない。ここを通った時に頭がおかしくなって」
「そう…… とりあえず、ここを抜け出そう」
「床が壊れれば、装置は止まるのね。それなら…… 」
 アキナが拳を床に叩きつけた。
 さすがに床部部のパネルはビクともしなかった。アキナは続けて足を振り上げて、踵を振り降ろす。
「ヤァ!」
 アキナの踵が突き刺さるように床に付くと、ドン、と鈍い音がした。
 手応えあった、という表情のアキナは、床を手で引っ張って左右に割った。
「す、すごい」
 そう言って亜夢は手を合わせた。
「さあ、行こう」
「どこに?」
 アキナは亜夢が来た方の道を示す。
「戻るの?」
「うん。たしか、私が最初に行った大型搬入路。SATの人たちも、一緒にいるはず」
 亜夢はうなずいて通路を戻る。
 そして大型搬入路の方へ入る。
「……」
 万一敵がいた場合を考えて、声は出さなかった。
 しかし、見る限り誰もいない。
 |非科学的潜在力(ちから)を駆使しても何も感じ取れない。
 亜夢は床や壁を触って、そこから思念波世界を探索する。
「……」
 アキナが亜夢に無言で問いかける。
 亜夢は首を横に振る。
 何も感じ取れない。亜夢はここがバックスクリーン裏だと推測し、階段を上り始めた。
「(亜夢、どこにいくの)」
 小さい声でアキナがたずねる。