二の腕が美紅さんの柔らかい胸にあたる。
「ね? そうでしょ?」
 美紅さんが俺の顔の前に手のひらを向け、すっと払うように動かす。
 もう一度同じことを言った。
「ね? そうでしょ?」
「中島さん。そういう訳だから。俺と美紅さんでイイことするから出てってくれないかな」
「なっ!」
 俺は中島さんの肩を押しながら、戸口の方へ押し出していく。
「待ってよ、外には屋敷から出た霊がいるかもしれないのよ。私を殺す気?」
「悪いけど、中島さん。美紅さんがああ言ってるし」
 美紅さんが急に顔色を変えた。
「霊が出ている? 屋敷から? あなたたち、あの屋敷に何かしたの」
 失言に気付いて慌てて中島さんは口に手を当てる。もう言ってしまったも同然だ。
 また美紅さんが俺の顔の前で手を動かす。
「屋敷で何をした?」
「……」
 言っちゃいけない、言わなきゃいけない、という感情がぶつかり合って、俺はただ固まっていた。
 するとカチャリ、と音がして扉が開いた。
「何やってるの、影山くん」
 後ろに松岡さんが立っている。
「ど、どうやって開けたんです」
「どうでもいいこと言わないで。そいつ、無断で霊を吸い込んで持ち去った女でしょ」
 美紅さん清掃員の恰好をして、俺のバイト先に現れた。そして何度も吸引装置で霊を持ち去った。
「冴島。ちょうどいい。影山はこっちがもらっていくところだ」
「何言ってるの。契約があるからそんなことできないわ」
「契約書に恋愛の項目はない。私と影山は恋愛で契約しているのだ」
「えっ? どういうこと? 契約なんてし……」
 言いかけた瞬間、また胸を押し付けられた。変に気分が盛り上がってきて、俺は美紅さんの体を引き寄せた。
「こら、影山。どうでもいいが、にやけるな」
 中島さんが後ろに下がり、冴島さんが前に出てくる。
 中島さんは冴島さんの左下から、松岡さんは右のさらに下の方から、ちょこっとずつ顔を出している。狭い部屋の狭く短い通路に三人いること自体奇跡だ。
「契約書に恋愛の項目はないわ。けれど、さっきの様子だと、あなたも契約している訳ではないようね。ただ無理やりコントロールしようとしているだけ。ならば私の契約の方が強いはず」
 冴島さんが手を上げて俺の方にてをかざす。
「ほら、影山くん。こっちに来なさい」
 体が自然と冴島さんの方へ進んでいく。
「ダメよ」
 美紅さんが俺を捕まえて離さない。俺はそれでも強引に前に進む。
「その|娘(こ)から離れなさい」
 俺は美紅さんの肩をつかみ、腕を伸ばして体を引きなした。すがるように腕にしがみついてくるが、俺は美紅さんの手首をとって、ねじるように回す。
「痛い、痛いよ」
 俺はやめれなかった。
「痛い、やめて」
「ごめんなさい。何故か、やめれないんだ」
 痛がっている女性に無理やり暴力を続けている自分を何とかしたかった。
「美紅さん、離してください。お願い」
「!」