「この女狐めッ……」
「美紅さん、待って!」
 俺も冴島さんの後につく。
 階段を上る冴島さんの足が目の前でバタバタ動く。視線はそのまま膝裏、ふともも、と上がっていく。
「いてッ! 何するんですか」
「変なところで顔を上げるからよ」
「俺の方見てないでさっさと上ってください」
「また見たかっ!」
 俺は顔を手で覆って梯子の途中で止まった。
 ロフトの上から冴島さんの声がする。
「ちっ、小窓から逃げられた。これは確実に影山のせいだな。罰金をつけておこう」
「えっ、ちょっと勘弁してくださいよ」
 階段から顔を出したところを踏みつけられた。
「だから、覗くなって! 覗きの罰金も加算するぞ」



 その日は駅前のビジネスホテルに泊まった。翌日、俺はそのまま大学へ行き、授業を終えて家に向かっていた。
 返り道を歩いていると、トラックが通りかかる。普段気にもしないが、その運転席に見覚えのある金属フレームのメガネの女性が座っていた。俺はトラックが通り過ぎて行ったあと、ハッと気づいた。
「あれ? 中島さん…… だよな?」
 トラックが来た方には俺の家がある。
 いやな予感がして俺は小走りに家に帰る。
 階段を上がって、鍵を開けて部屋に入る。
「えっ……」
 何もない。壁一面を覆っていたディスプレイも、キャベツと水を入れる冷蔵庫も。靴を脱いでロフトへ駆け上がる。
 ロフト部分にあるはずの布団も枕も一切ない。
 部屋から俺の持ち物はなくなっていた。
 トラックに書いてある会社名が思い出される。
 そうだ、あれ、引っ越し会社だ。俺はやられた、と思ってスマフォを開く。通知が来ている。
「そこにいるとトウデクア? だっけ、奴らがまたくるといけないから、引っ越しといたわ。引っ越し先の住所はここ」
 俺は電車を乗り継ぎながら、住所の場所に向かった。
 地下鉄を降りて、地上に上がるとすぐのあたりに大きな墓地が広がっていた。
「えっ……」
 大きな墓地の反対側に、高層ビルがいくつか見える。その中の一つは、冴島さんの除霊事務所があるビルだった。
 慌ててスマフォを確認すると、住所の家はどうやらこの墓地の真横にあるようだった。
 もうあたりは暗くなっていて、墓地沿いの道には、ぽつぽつと灯りが点き始めた。
 墓場に見える|卒塔婆(そとば)が動いたように思えて、俺は周りを確認する。
 その付近の地面に黒い影が動く。大きさからしてネコかなにかだろう。けれどそうじゃなかったら……
 俺は小走りに住所の家に向かった。
 小さな屋根付きの駐車場と、二階建ての家が建っていた。
 表札には、『冴島』と書いてある。
「えっ、ここ、冴島さんの家? タワーマンションとか、ホテル暮らしなんだと思ってた」
 誰にいう訳でもなくボソボソとそう言うと、俺はメッセージを入れた。
『着きました』
「……」
『今出るね』
 メッセージは、中島さんからだった。
 しばらくすると、玄関の明かりがついて、鍵が外れる音がして、扉が開いた。
 スウェットを着た中島さんがひょい、と現れた。