サングラスをかけた男が、暗い部屋でタバコを咥えている。
 タバコの炎は、吸うたびに明るく光るだけで全く燃え進まない。部屋の扉が開くと、ショートボブにつややかで真っ赤な口紅をつけた女性が入ってくる。
「また失敗したな」
「……」
 女性は何も言わずに頭を下げる。
「しかし、事態は動き出した」
「?」
「わからんのか。それと、その男がキーではないことも明確になった」
 女は口を尖らせて何か言いかけた。
「キーとなるのはもうひとりの影山だ。俺もまだ見たことはないが」
「もうひとりの影山?」
「ああ。まあ、それに気づけたのはお前のおかげだよ」
 タバコを咥えて、大きく吸い込んだ。しかし炎は進まない。
 ふぅ、と大きく吐き出すと、女は軽く咳き込んでしまう。
 男は突然口が緩むと、笑い始める。
「ハッハッハ…… このことは冴島も気づいていまい。準備しろ」
「はい」
 女は業務用の大型の掃除機のようなものを引っ張り出す。
 男は真っ黒な薄手のコートを引っ掛けると部屋を後にした。
「待て。俺の車で行くぞ」
 女は緊張した面持ちになったが、うなずいた。
 エレベータで地下まで降り、駐車場を歩くと、黒いスポーツタイプの車の前に止まった。
 黒と言っても光を映すようなツヤはなかった。漆黒の車。早く走るために飾りを取り去って出来たくさび形。
 男が小さなスペースに女の持ってきた掃除機を入れる。
 女は車のドアの開け方が分からない。サングラスの男が後ろに回って、指先で軽くドアを開ける。
 寝そべるような恰好のシートに座るが、女はシートベルトの付け方も分からない。
「キャッ」
 男は女の股間に手を入れたかと思うと、直後にカチッと音がしてシートベルトが固定された。
 男の表情は分からなかったが、女は男の機嫌がいいことが分かった。
 イグニッションを回すと、地下の空間に爆発的なエンジン音が響き渡った。
「!」
「……起きたわね」
 どうやら俺はソファーに寝かされていたようで、俺の横の椅子に中島さんが座っていた。そこで中島さんも寝ていたようだった。
「どう…… でした?」
「分からない。あの屋敷のことは一切出てこなかったの。一つ明らかな映像があって、今冴島さんがいろいろ当たっているところ」
 中島さんがタブレットを操作して、俺の方へ向けた。
「唯一取り出せた映像はこのお婆さん。知ってる?」
 そこには白髪をカラフルに染め上げ、大きめのメガネをして微笑んでいる老婆が映っていた。記憶がある、と言えばある。どこで見たとか、これが誰だ、とか言われるとまったく引っかかるところがない。
「知ってはいるんですが、誰だとかどこであったとか、俺との関係とか……」
「……やっぱりそうなのね」
 中島さんはがっかりしたようにスマフォを操作し始めた。
「冴島さんが言っていた通りだった」
「すみません」
「あやまることはないわ。予想通りだったんだから」
 スマフォを操作し終わると、中島さんは言った。
「テレビでもみる?」
 俺は上体を起こしてソファーに座り直した。