中島さんが何か思い出したように言った。
「よく覚えていましたね。確かにお婆さんがやってきて、って」
「……影山くんと無関係な人じゃないのよ。血縁関係だって思った方がいい。あのお婆ちゃんに会う必要がありそうね」
「けど、俺、何も覚えて……」
 俺はうつむいて床を見つめた。
「大学に振り込んだ銀行口座の情報を追ってお婆さんの住所がわかるわ」
「へっ?」
 冴島さんはノートPCに素早く何か打ち込んでいる。
「ハッキング?」
「私がハッキングなんかできると思う? 私の霊力を使って調べているの。霊を憑依させた行員にリストを探させ、銀行からメールを打たせる訳」
 俺は冴島さんのノートPCを指さした。
「じゃ、今カチャカチャやっていたのは?」
「昨夜テレビで見た気になるお菓子の通販サイトを探していたんだけど?」
 俺はさっきとは別の意味でうつむいた。
 早く答えを見つけないといけない。あの屋敷と俺が住んでいた家に何か関連があったに違いない。けれど記憶は戻るわけでもないし、自ら何かができる状況ではい。
 ポン、と肩を叩かれた。
「大丈夫。なんとかするから。とにかく状況を確認しないと焦ってもだめよ」
「すみません」
「少し話しておきましょうか。警察関係者から情報を得ているの。事件が立て込んで同一地域で起きたので、除霊士が呼ばれたようね」
「あ…… 冴島さんと最初にあった居酒屋の事件」
「そうそう。あの時は私が警察に協力するため事件現場によばれたの。今回の同一地域の事件多発でも怪しいと判断すれば警察から呼ばれるわ。その情報からすると、付近に浮遊している悪霊の密度が都心の他の地域の平均値より四桁ほど違う異常値だそうよ。どこかに溜めておいたものが流れている、そんな気がするって」
「まさか……」
 俺が言いかけたところを冴島さんが割り込むように話した。
「玲香と一緒に屋敷の中に入った時、沢山の霊を見たんでしょ。屋敷周辺に集まっていた霊が漏れ出している、のかもしれないわね」
「やっぱり俺が引っ越したせいですよ」
「そう決めつけないの」
 冴島さんはノートPCで何か操作している。
「お婆さんの住所がわかったわ。会いに行きましょう」
 俺は両足をまとめていた紐を右足だけに巻きつけられた。
「どうして外さないんですか」
 冴島さんは振り返った。
「あなたを失いたくないからよ」
「それは俺を好きだとか、抱きたいとか言う感情……」
 いきなり頬を叩かれた。
「セクハラ発言は禁止だって言ったでしょ。女の子に嫌われるぞ」
「はい……」
 中島さんは後部座席に、俺は例のごとく助手席に座った。
 松岡さんがナビに入力すると、車は走り出した。
 俺はある疑問が浮かんだ。
「冴島さん、お婆さんの住所をメールした行員はどうなっちゃうんですか?」
「別に、自分の業務内で可能なことだから誰にも咎められないんじゃない? こんな夜中まで業務していたことは注意されるかもしれないけど」
 俺はちらっとルームミラーで冴島さんを見た。
「そうじゃなくて、霊をつけたんですよね。その霊はどうなっちゃうんですか?」