俺が言うと、橋口さんが言う。
「そりゃ、|火狼(ほろう)が入ったんだから当然だと思うケド」
「ちょっとまって、玲香と影山くんは、どうやって出たの?」
「そのまま出ました…… あっ。扉が開かないようにノブの部分を紐でくくって」
 橋口さんがあごに指を当てて考えているようだった。
「それ霊力のある紐なのかしら?」
「いや、普通の紐だと思うわ。仮に玲香は霊力のある紐だとしても扱えない。影山くんも同じ」
「どういうことなんですか?」
 冴島さんがその扉をじっと見る。
「扉の封印がとけて、ここから中にいた霊が漏れた、ということよ」
「……やっぱり俺のせいだったのか」
 背中に手をあてられる。
「自分を責めないの。私の指示の問題でもあるわ」
 もう一つ、別の手が背中にあてられる。
「貧乳除霊士が勝手に入れって言ったんだから、しょうがないわ」
「けど、俺は死んだ人に対して……」
「交通事故になれば車は人を殺してしまう。それを人殺しというなら、車を作ったり売ったりする人は殺人罪になってしまうケド」
 冴島さんが言葉を継いだ。
「ちんちくりんのたとえだと分かりにくいけど、あなたはしっかりと扉を閉めた。実際は、霊を閉じ込めることは出来なかったけど、可能な限りのことはしたのよ。自分を責めるのはやめなさい。人が死んだのは霊のせいよ。もっと言えば、ここに霊を集めた人間が……」
「それも」
 振り返り、冴島さんの言葉を遮った。
「それも俺、じゃなければ俺の家族が集めたのかもしれない。結局、俺が……」
「だから!」
 と冴島さんが両手を握り込んで叫んだ。
「もう自分を責めるのはやめなさい。この屋敷に霊が集まっているからといって、必ずしも家のものがやったことかどうかは分からないでしょ」
 橋口さんは何かスマフォに何か機械を付けていた。
 そして繋がっているスマフォをこちらに向ける。
「ほら。ここの霊圧が下がっている。火狼(ほろう)を追い込んだことで結果的に周辺の霊圧は下げることができたんだケド」
「ああ、霊圧っていうのはこの近辺の霊の密度のことね。ここに来る前に話したと思うけど」
 俺はうなずいた。
「行けるのかしら? 屋敷のなかでは働いてもらわないといけないんだケド」
 もう一度うなずいた。
「さあ、行きましょう」



 中島さんと一緒に入った時とは全く別の雰囲気に思えた。
 黒い影はみえない。
 橋口さんが霊圧を測る。
「ここも屋敷の外と変わらないぐらいに下がってる。この屋敷の中で、誰かが霊を吸引しているか、霊を引き付けているとおもうケド」
「同意見だわ」
 今日は門からこちらを覗かれることはない。屋敷の周りは警察が封鎖しているからだ。
 だから中島さんと着た時とは違って、俺たちは堂々と門から屋敷へ通じる道を進んでいく。
「これだけ霊気がないと、気味悪いぐらいね」
 冴島さんが独り言のように言うが、霊気を感じない俺には何が違うのか分からない。
 と、突然、橋口さんが身構えた。
「そう楽はさせてもらえないみたいだケド」
「そうね」