俺には何がなんだかわからない。
 ただ、そこからは大きな屋敷の姿が見えていた。洋風だけれど、どこかアジアの雰囲気がある。近現代風の建物だった。
「来たわよ!」
「麗子、この子、見えてないみたい」
「危ない!」
 俺は飛び込んでくる冴島さんを抱きとめた。
 直後、冴島さんの身体が弾かれるように俺にぶつかってくる。
 そして冴島さんは苦痛に顔をゆがめた。
「えっ? 今の、なんなんです?」
「霊弾よ。低級霊をミサイルのように飛ばして生きているの」
「もしかして、今、そのミサイルみたいのに当たっちゃったんですか?」
「大丈夫、私は対処方法を知っているから。それより影山くん。あなたも霊弾を見えるようにしておかないと戦えないわ」
 俺のこめかみに冴島さんの指があたる。
 冴島さんは目を閉じて何かブツブツと唱える。
「これでいいはず」
「また来たんだケド」
 橋口さんが指さす方向を見ると、炎に包まれた石のようなものが飛んでくるのが見えた。
 それは放物線を描かない、でたらめに飛翔する物体だった。
「避けて!」
 冴島さんは俺を突き飛ばした。
 石は冴島さんをめがけて突っ込んでくる。
「冴島さん!」
 俺が叫ぶのと同時に、冴島さんはパチン、と指を鳴らした。
「消えた」
「消したんじゃない。麗子は、霊弾を昇天させたんだケド」
「そうか、霊は霊なんですね」
 道の左右の林からも、炎に包まれた石のようなものが飛んでくる。
「一斉に撃ってきたわね」
「麗子、逃げるわよ」
「逃げる? かんな! いつも見たいにムチで叩き落としてよ!」
「さっき|火狼(ほろう)と戦った時に燃されちゃったわ」
「まったく! 役に立たないちんちくりん!」
「うるさい貧乳、早く走りなさい!」
 俺たちは全員で、来た道を門の方向へ逃げる。
 林から出てきた霊弾は、カーブしながら俺たちを追いかけてくる。
 この数の霊弾をどうしたらいいのだろうか。
 俺は思いついたことを口にした。
「冴島さん! GLPの『助逃壁』は効き目がありますか?」
「おっ、たぶん行けるっ! けど、もうすこし引き付けて霊弾が直線状に並ぶまで走るわよ」
 あちこちから放たれた霊弾は俺たちを追尾して道なりに集まりつつあった。
 ちらっと振り返った冴島さんが言う。
「準備して。『助逃壁』を使う時はカンナと私の力を加えるから勝手に使わないのよ」
「はい」
 俺は逃げながら竜頭を回して『助逃壁』を選択しておく。
 門近くまでやってくると、冴島さんが言った。
「振り返って!」
 冴島さんと橋口さんは、腕を伸ばして俺の肩を押すように支える。
 何か触れられた筋肉が痙攣するような感覚がある。