そして俺たちの位置を確認すると、大きな口を開けて走り出した。
「逃げて!」
 口を開けた火狼が、橋口さんに襲い掛かる。
 俺はしっかり橋口さんの身体を捕まえて、ぐるり、と回転した。
 火狼のあごが勢いよく閉じ、ガチッと、歯がぶつかる嫌な音がする。
 寸前で俺も橋口さんも、火狼にかみ砕かれずに済んだ。
 いや、そんなことよりも…… 俺の腕には橋口さんの柔らかい胸の感触が伝わってきていた。
 すると、俺が触っている橋口さんの胸から光があふれ始めた。
「えっ? 眩しい……」
 火狼は、光を恐れて飛び退く。
 そこに冴島さんが霊弾を浴びせ、火狼はじりじりと下がっていく。
 あふれだした光が収まると、まぶたを閉じていた橋口さんが目を覚まし、自らの足でしっかり立ち上がった。
「ふう…… おかげで、火狼の呪縛が解けたわ」
「……」
「ん…… いつまで触ってるの?」
 俺は慌てて手をひっこめた。
「その杖を貸して」
 GLPから出した『鉄龍』を橋口さんに渡す。
 火狼が再び俺たちの方へ走り出す。
 大きく開けた口に噛みつかれるか、と思ったタイミングで、橋口さんは杖を押し出すように霊弾を放った。
 杖は火狼の開いた口目がけて飛んでいく。
 とがった先がのどを貫くかに見えた瞬間、火狼は体をひねり、口の脇をかすかに切って鉄龍は飛んでいった。
 火狼の足が俺の頭に振り下ろされ、俺と橋口さんは火狼の体に押しつぶされた。
 右の拳を握りこんで、火狼のしたあごを突く。
 仰向けになった火狼の腹に、左の拳を打ち込むが、すぐに前足で反撃されてしまう。
「うわっ……」
 火狼も慌てて立ち上がって距離をとった。
 冴島さんが連続で霊弾を打ち出し、火狼はさらに後退する。
 俺は頭を切ったらしく、血が目にかかってくる。
「大丈夫?」
 橋口さんが俺の血を拭ってくれた。
「痛くは…… 痛いですけど、大丈夫です」
 すると、今度は火狼が冴島さんに向かって牙を向けた。
「麗子!」 
 橋口さんが霊弾を放つ。
 俺は『鉄龍』を回収するために走った。
 霊弾を次々と打ち込まれ、火狼は避ける一方だった。
 転がっている『鉄龍』を拾い上げると、火狼は再び遠吠えする。
「えっ? 大きくなってく」
「マズイ……」
 冴島さんがそう言ったのが聞こえた。
 俺は慌てて、二人の元に戻る。
「なんで大きくなったんです?」
「あたりにいた強力な霊を吸い込んだんだわ」
 橋口さんが言う。
「屋敷くらいに大きくなってる」
「こんなに大きい怪物、どうしたら……」
 冴島さんは無言で両手を振り上げ、同時に振り下ろした。両手の指の数、つまり十発の霊弾が同時に発射された。