亜夢は必死に現実世界を見ようとするが、何も感じることが出来ない。
 ただ目の前にいる布をまとった人物を見つめることしかできない。
『その力を、なぜ良いことに使わないんだ』
 布の中に浮かぶ目が、細く疑うような目つきになる。
『では聞くが、お前の非科学的潜在力(ちから)の使い道が良いことなのか、考えたことはあるのか』
『……』
 布が波打ちながら、遠く、小さくなっていく。
『ま、待て!』
 意識を切り替えていないのに、思念波世界が見えなくなっていく。
「あっ!」
 バイクの轟音が聞こえてくる。
 意識がなくなっていたかに見えた七瀬がバイクにまたがっている。
 スタジアムのバックスクリーンにある大きな扉が開き、バイクはそこを走り抜けていった。
「まてっ」
 まるで床に靴が接着しているかのように足が動かない。
「まてっ!」
 バイクが通り過ぎると、扉はゆっくりと閉まっていった。
 完全に扉がしまり、バイクの音も聞こえなくなると、足が急に上がった。
 亜夢はどうしていいかわからず、ずっとバックスクリーンを見つめていた。



 亜夢とアキナはSATに人質全員解放までの話を伝えた。
 かなり長い拘束時間だった。すでに対テロ用情報統制(ICCT)は解けており、テロリスト側の超能力干渉波制御も崩壊していたため、二人は中谷の作ったキャンセラーをつけていた。
「ありがとう。これで報告書は作っておくよ」
「お世話になりました」
「誰も殺さずに済んで良かったよ」
「はい!」
 亜夢は二番目にうれしい言葉をかけられ、笑顔でそう返事をした。
 一番うれしいことは……
「乱橋くん」
 中谷と清川がやってきた。
 二人の後ろから、美優が言った。
「もうSATへの説明は終わったの?」
「美優!」
 中谷と清川の間をすり抜け、亜夢は美優に駆け寄った。
 |精神制御(マインドコントロール)され、ここまで連れてこられた美優を奪還した。亜夢はそれが一番うれしかった。
 抱きしめて、跳ねるように何度もジャンプした。
「ちょっと、亜夢……」
「良かったよ。本当に良かった」
「あの敵の、一瞬の隙をつけたのは本当にすごいよ」
「SATの人が、通信機を切ってくれたおかげだよ」
 美優は首を振る。
「スタジアムのカメラの映像は、ちょっとした補助にすぎないわ。あの一瞬の隙に取り返せるだけ、亜夢の力が上がったってことよ」
「そうなのかな」
 アキナが近づいてきて、言った。
「さっき自分で言ってたじゃない。相手は七瀬をバイクごと回収したんでしょ? それぐらい|精神制御(ちから)が強いってことじゃない」
「そう考えると、たかがカメラの映像を切ったがぐらいで奪い返せたのはすごい疑問だわ」
 アキナも美優も、真剣な顔をして黙ってしまった。
 亜夢はしかたなしに考えて言葉をつないだ。
「もしかすると、遠いところから|精神制御(マインドコントロール)するってことに、根本的な問題があるのかも」
 アキナが言う。
「思念波世界では距離がないんじゃんかったのか?」