「もちろんです」
 橋口かんなは警部とパトカーにのり、殺人現場のある通りにつく。
「犯人らしい人物が逃げているのね」
「向こうのビルの上に」
「じゃあ、私たちはこっちのビルから行きましょう」
「橋口さん、ここでは遠すぎませんか?」
 橋口はビルの上を眺め、言った。
「大丈夫。ここの方が見通しがいいから」
 警部は意図を理解したように、他の警官は別のビルの屋上に向かわせ、自らは橋口と一緒のビルに入る。
 屋上の鍵を預かって、外に出る。
 周囲のビルがほとんど見下ろせる位置に出た。
 橋口が手すりまで進み出ると、周囲のビルの屋上を眺める。
「あそこが発見したビルね?」
 警部はタブレットで地図を見ながら言う。
「そうですね」
 橋口はビルの屋上をじっと見つめている。
 何かを投げるように手を軽く振る。
 警部には何も見えない。
「あの、何か投げた、んですか?」
「しっ……」
 橋口は口に指をつけて黙るような仕草をする。
 警部も橋口が見ている方をながめるが、なにも見えてこない。
「警部。あそこ、三つめのあのビルの屋上」
「はい」
 警部はすぐに無線を使ってビルを指示する。
「それと、周囲に逃げれないように周囲のビルの屋上にも」
「はい」
 同じように素早く人員をコントロールする。
「橋口さんはどうしますか?」
 橋口は、手すりを飛びこして、ビルの縁に立った。
「橋口さん?」
 トレンチコートを両手でもって掲げ、橋口は目的のビルへ飛び出した。
「!」
 警部がみると、橋口はトレンチコートをパラグライダーのように使って、下のビルの屋上へ滑空していた。
 警部は無言のまま無線のやり取りに戻った。



「どうした、まだ休憩が終わるには早いぞ」
「殺人犯がこのビルに……」
「えっ、どういうことだ」
 すると外にサイレンの音がして止まった。パトカーが来たのだろう。
「ん、なんだ」
 店長が言う。
「さっき警官がパトカー呼んでました」
「ちょっとまて、本当なのか?」
 俺はうなずいた。
 店長は慌てて店に入って、店の女子店員を集め、説明する。
「今、非常事態が発生した。殺人犯がビルの周囲にいるらしい。下手に逃げるよりはここにいた方が安全だ。店の外の掃除はいいからな」
『はい』
 全員の綺麗な声が返ってくる。
 俺はGLPを確認する。まだ『助逃壁』は復活していない。他のやり方を知っているのは『鉄龍』しかなく、果たして、さっきの拳法使いのような奴に通用するかどうか不安だった。