何も考えずに竜頭をクルクルと回していく。
 連動して変わっていく画面を見ていると、早すぎて見えなはずの文字が頭に浮かんだ。なんどか進めたり戻したりするうちにその文字で画面を止めた。
 『黒王号』と書かれていた。
「こくおうごう……」
 店長がGLPを覗き込んで、言った。
「ん、こくおうごうだろ? 確かものすごい大きい馬じゃなかったかな。乗っている奴がちょーつええんだ」
「店長、中国語得意なんですか?」
 店長が興味を持ったようで俺のGLPを触ってくる。竜頭をクルクル回したり、画面をタップしてきたりする。
「ん〜 見た感じ、これ、中国語じゃねーんじゃねぇかな」
「えっ……」
 GLPが中国製、ということで俺はこの画面の言語は中国語だと決めつけていた。
「中国語じゃないんだ……」
「確かに漢字がやたら多いがな」
 俺はその『黒王号』というのがやけに気になっていた。すごい大きい馬なら、逃げるにも追いかけるにも都合が良さそうだ。なんなら『助逃壁』の代わりに壁となってもらってもいい。
「店長! 井村さんがまだ外でした」
「何!」
 店長は慌ててレジのところへ行く。俺もこっそりと後ろをついていく。
 昨日入ったばかりの井村さんが、外の看板を拭いている。
「なんか様子が変だ!」
 店の前に止まったパトカーを盾にするように警官が銃を抜いた。
「井村さん……」
 俺は何も考えずに店の入口から外に出ていた。
 警官が銃を向けた先にさっきの上下レザーの男がいた。
 井村さんは何も見えてないのか、看板を拭いている。
「そんなに足を伸ばしたまま身体を曲げると…… パンツが見えちゃう」
 いや、そんなことを考えている場合ではない。助けないと。
 独り言のせいで警官の一人が俺に気づいたようだった。
「キミ、下がって」
「あれウチの店員なんです」
 俺は警官の制止を振り切ってパトカーの前に出た。
 そうして、急いで井村さんの手を引く。
 上下レザーの男、つまり殺人犯に聞こえないように、小さい声で言う。
「(危ないよ! 早く店に入って)」
 ようやく周りをみて状況が飲み込めたようだった。
「(影山さんはどうするの、ほら、一緒に……)」
 井村さんが手を引くが、それを振りほどく。
「(大丈夫、俺は大丈夫だから)」
 井村さんが店に駆け込むのを見て、俺も店からの死角へはいる。そして、GLPの竜頭を押し込む。
「いでよ『黒王号』!」
 俺の足元から、真っ黒い馬が浮かび上がってくる。
 そのまま俺を背に乗せ、『黒王号』が現れた。
 かなり、高い。
「えっ……」
 犯人が、こっちを向いた。
「ラオウ……」
 俺はラオウ、と言われて身体のなかのスイッチが入ったようだった。
「お前が見たのは死兆星。俺と戦う運命だったのだ」
 自分で言っている、その言葉の意味がわからなかった。