しつこい。これで十二、三度目ぐらいだろうか。店長はひたすら回数が多いとは聞いていた。逆にチーフの説教は、相当胆を冷やす代わりに回数がすくないらしい。もしかしたら、チーフの方が…… いや、どっちらもあまり変わらないか。
「聞いているか?」
「は、はい。すみません」
「急いで食器をそろえて。井村君のせいか店はかなり混んできている」
「え、また外の掃除をさせてるんですか?」
 この店では新入りの女の子に、わざと外の掃除させ、気を引かせて客を呼び込んでいる。
 掃除といっても、本当に汚れを落とすようなことではない。
 本日のメニューを書いた置き看板と、自動ドアのガラスを軽くふく程度。
 女の子の制服と、そのしぐさをアピールするのが目的なのだ。
「ほら、料理出来たからプレート頂戴」
 乾燥が終わったプレートを素早く差し出す。
「カップとソーサーも」
「はい」
 大体、他人が少なすぎるのだ。今日一日、朝から夜まで俺が入らなければ店は回らない。
 なのにも関わらずこの皿洗いに対して、店内のリスペクトはゼロだ。
 そりゃ、次から次に辞めていくだろう。無理もない。
 そんな風に、へとへとになりながらも、俺は仕事を終えた。
 後は店内の清掃をすれば上がり、というところで、店長が俺に言った。
「いや、今日は本当にありがとう。井村君が助かったのもそうだし、なにより今日君が入ってくれたおかげで、食器が早く準備出来て、いつもより客を回すとことが出来た。本当にありがとう」
「は、はい。どういたしまして」
 なんだろう、俺の心の声が聞こえたのだろうか。
 俺がいなければ回らない、ということを理解したような店長の発言だった。
「もう少しだから頑張って店内の掃除をしてもらえるかな」
「はい」
 俺は店内の掃除を始めた。
 店内の椅子やテーブルをすべて綺麗にし終えると、俺は厨房に戻った。
 前掛けを自分のところに引っかけて、厨房のゴミをまとめると店長に挨拶した。
「今日は、これであがります。お疲れさまでした」
「ああ、ありがとう。明日は午後からだったかな?」
 店を出よう、解放される、と思った瞬間、頭をハンマーで叩かれたような感覚になった。
「……俺、明日シフトは入っていないはずですが」
 店長は何かノートを広げてみている。
「大学の授業は午前中だときいていたから、入れると思って組んでしまったよ。お願いだ、入れないか?」
 そういえば時間割りを提出させられた。取っている授業にマーキングさせた上でだ。
「えっと……」
「決まりだな。頼んだよ。お疲れさま」
 俺が何か言い訳を言い出さないうちに帰らせ、シフトを確定しようということのようだ。
 店長に押し出されるように店を出て、明日の午後のバイトが確定した。
「……はあ。ブラックにもほどが」
 ビルのゴミ集積所に両手のゴミを叩きこむと、俺はビルを出た。駅の改札につくと、女の子がこっちをみているのに気付いた。
「あっ、井村さん」
「影山さん、待ってたの」
「えっ? 俺を」
 井村さんがうなずく。
 俺は除霊事務所のバイトを初めてから、何度も来たと思ったモテ期が、こんどこそ本当に来たのかも知れない。そう思ったが、過去の経験から疑り深くなっていた。