「……じゃないですよね」
「私は影山さんを待っていたんです。一緒に帰りましょう?」
「えっ……」
 自分の顔がニヤけていることがはっきりと分かった。わかっていたが、その顔を普通に戻すことが出来なかった。
 井村さんが微笑む。
「どうしたんですか? 私の顔に何かついてますか?」
 俺は首を振る。
「そんなことない、ないよ」
「良かった」
 俺たちはホームで電車を待っていた。
 井村さんが話しかけてきた。
「今日は、殺人犯がいることを知らせてくれて、ありがとうございました。あのままあそこで看板を拭いていたら、危ない目にあっていたかもしれない」
「ああ、本当によかったよ。何事もなくて」
「あの後、影山さんなかなか帰ってこないから…… 私……」
 井村さんが急に俺の手を引いてきた。
 やわらかくて、すべすべした指に触れて、気持ちが良くなった。
「えっ?」
「心配しました。店長が出てはいけない、と言うし。どんなことがあったんですか」
「えっと…… あの後だよね。俺はちょっと動けなくなっちゃってさ。だけど、警察に協力している除霊士の人がやってきて、犯人とあっさり捕まえてくれたから助かったよ」
 井村さんが、上目づかいで俺の方を見てくる。
「除霊士、ですか。なんて人ですか」
「あっ、いや、うん。よく知らない」
 俺の手を井村さんの頬に付けた。
「本当に?」
 俺のGLPから違和感が伝わってくる。
「……」
 俺は言葉には出さずに、うなずいた。
「じゃあ、犯人には霊がついていんですか?」
 GLPの違和感は続いている。
 井村さん、あなたがこの違和感の原因ですか。俺はそんなことを言いかけ、その言葉を飲み込んだ。
「じゃないかな。俺もよくわからないんだよ」
「……そうですよね」
 井村さんが、そう言って笑うと、急にGLPの違和感が消えた。
 同時に、俺の中にある警戒心も一緒に消えて行った。
「井村さん、明日も|仕事(バイト)入るんですか?」
「明日も同じ時間入りますよ。影山さんは?」
 迷いもなく、そう答えたように見える。
 俺は、それに対して戸惑いながら言った。
「俺も午後、店にはいります。よかったら…… 明日も一緒に帰りませんか?」
「……ええ、影山さんがよければ」
「良かった。明日が楽しみになってきました」
 また自分の顔がニヤけていることを抑えられなくなっていた。
 なんだろう、本当にモテ期がやってきたんじゃないか。
 明日も会話が弾めば、この|娘(こ)を彼女にできるんじゃないか、俺はそう思っていた。
 葵山で俺が下り、井村さんはずっと手を振っていた。
 駅から歩いて、下宿させてもらっている冴島さんの家に帰る。