風呂に入って寝ようと思ったら、冴島さんが帰ってきた。
「おかえりなさい。いつも遅いですね」
「もう帰ってたのね。そうだ、あの事件、あなたのバイト先の近くでしょ?」
 冴島さんが指をさしてそう言った。
「警察協力で橋口さんが来てて」
「そうみたいね。ちょっと話しを聞いたわ。殺人犯だけど、あなたにお願いしている違法降霊師が|憑(つ)けた霊の可能性があるわ」
 ふと、俺は自分がコピーして警察に渡した映像が頭に浮かんだ。
 ハゲの常連さんと、その連れ。連れは、上下レザーを着ていたな…… 上下レザーの男? 筋肉とかのつきかたはまるで違うが、顔はもしかしたら……
「まさかミラーズの店内で降霊術は行わないと思うけど、近くで事件があったのなら、そういう可能性も否定できないわね」
「店内に、VIPルームっていうのがあるんです。外からは見えない部屋が」
 しかし、ハゲの常連さんがVIPを使っていたかどうかはわからない。もしかしたら、予約状況とか使用状況を書いている店のノートに何か書いてあるかもしれない、と俺は思った。
「ちょっと調べた方がいいかもね。現場を抑えれれば、その場で捕まえることも可能よ」
「わかりました」
 冴島さんが俺を睨んでいるのに気づいた。
「えっと…… どうかしましたか?」
「あなたどこまでついてくる気なの」
 気づくと、冴島さんはトイレの扉の前にいた。
「あっ、そんなつもりじゃ」
「……」
 冴島さんはこっちをじっと見ている。俺が充分に離れるまでは、トイレに入らないようだった。
 俺は居間のソファーに戻って考えた。
 どうやったら、監視カメラの映像を確認させてくれるだろう。今日は店長だったが、明日はきっとチーフが来ている。チーフは裏方が店の側に出ていくのを極端に嫌う。何か明確な理由を作らないと店の防犯映像をみることは出来ない。
「影山くん…… ちょっとじっとしてて」
「えっ、なんか霊でもいましたか?」
「違うわ…… 髪の毛。結構長い。あなたのじゃないわね」
 俺は風呂に入ってそういうものが一切ついていないはずだ、と思い考えられる髪の毛について言った。
「風呂入ったから、今髪の毛がついているとすれば、冴島さんのじゃないですか」
「……へぇ」
「なんですかその言い方」
 冴島さんはニヤリと笑った。
「ずばり、霊痕がついている、と言った方がよかったかしら?」
「れいこんですか?」
 冴島さんは俺に手をかざした。
「あなたの家族のこと、あなたの屋敷のことは言わないのよ」
「……」
「これで大丈夫かな。いい、その女の子、あなたが欲しいんじゃなくて、あなたの情報が欲しいのよ」
 突然『女の子』という単語が飛び出てきて、俺は焦った。
 俺にとって、今、女の子というのは井村さんしか考えられなかった。
 なぜ、井村さんのことがバレている。井村さんは、俺の家族とか、屋敷のことを知りたがっているというのか。だが、彼女はまだそんなこと一つも言い出してない。
「なぜ女の子のことが……」
 冴島さんは、キッチンの方へ行くと全自動コーヒーメーカーに豆をセットした。
「……そうね。悪かったわ。今回のは良い訓練になると思うから、自分で考えてみなさい。なぜ私がさっきのようなことを言ったのか。答えがわかった時、あなたは確実に一つ成長しているわ」