亜夢はアキナから知った事情を、美優に小声で話した。
「かわいそう……」
「アキナ。けど、寮じゃ動物を飼えないよ」
「……」
 アキナはアスファルトをじっと見つめていた。
「清川さんか、中谷さんに言ってなんとかしてもらおうか…… あ、美優の家は?」
 亜夢が美優の方を見る。
「私の家なら…… って、そうだ。ママが動物だめなのよね」
 美優も手を広げて首を振った。
「やっぱり中谷さんか清川さんに頼んでみよう」
 ホテルに戻ってチェックアウトを済ませると、三人は警察署に行った。
 アキナが子猫を抱えていると、警察署の入口で|立哨(りっしょう)している警官に睨まれた。いや、睨んでいないのかも知れなかったが、アキナはそう感じて、身体をよじってカバンの中に子猫を入れた。
「(待っててね)」
 亜夢と美優が署に入ってから、アキナは遅れて署に入った。
 清川さんを呼び出して、取ってあった打ち合わせ室へ向かう。
 打ち合わせ室に入ると、中谷さんが一人奥に座っていてパソコンで何か仕事をしていた。
 清川さんが亜夢の腕をつつく。
 振り返ると、清川が手を後ろで組んで三人の方を見ている。
「それじゃ、ね」
「あれ、空港まで、車の運転するんじゃ?」
「私、別の仕事が入っちゃったの。中谷さんが送ってくれる」
「そうですか。今回もいろいろとありがとうございました」
 亜夢が深々と頭を下げると、美優もアキナも頭を下げた。
 礼を終えると、清川は亜夢のそでをつまんで言った。
「また機会があったら会いたいな」
「えっ、ええ。またいつか会えたらいいですね」
「うんと、そういうんじゃなくて。ほら、連休とかあるじゃん。休みをとって、ヒカジョまで遊びに行ってもいい?」
 亜夢は、一瞬、清川への疑惑が頭をよぎって、素直に返事が出来なかった。
「……あっ、と」
 アキナが右手を差し出して握手した。
「いいですよ。ただ、来る前に連絡くださいね」
「え、ほんと、じゃ、アキナちゃんの連絡先教えて」
 アキナと清川は何かのIDの交換をしている。
 亜夢は思い出したように言った。
「アキナ、そうだ。アレ、アレの事を清川さんに頼んでみたら?」
「……」
 アキナは首を振った。
 亜夢は、アレ、と言ったせいでアキナが気付かなかったと思い、猫のような手で顔を拭くようなしぐさをして見せた。
 それでもアキナは首を振った。
「(どうして?)」
「(もういいの)」
「?」
 アキナは上機嫌で去っていく清川に手を振っていた。
「(もういいって?)」
「……」
 アキナは亜夢の言うことを無視した。
 確かに、抱っこしていたはずの子猫がいない。