「しつこい!」
 声が聞こえて、俺のやらねばならないことを思い出した。
 公園の林の中を走り抜けていく。
 と舗装した通路を、走っていく人影を見つける。
 俺はそれを追う。
「井村さん!」
 前方に人影が見えてきた。
「影山さん?」
「?」
 手前にいる、ハゲのおっさんが振り向いた。
「なんだお前は」
 おっさんは立ち止まって、俺を指さした。
「人の恋路をじゃまする奴は、こうだ」
 おっさんがポケットから出した白紙を広げ、懐から出したペンでさっと書きなぐる。それを弾くように俺に向けて飛ばしてきた。
 紙は不自然に飛行してくる。前に走りながら、身体をずらしてよけた。
「えっ?」
 バタバタ、と音がしたかと思うと紙は急カーブして俺の左足に絡みついてきた。そして、みるみるうちに粘つくようになり、重くなった。俺は手をついてしまった。
「い、岩?」
 左足が、黒光りする石の中に埋まっている。重すぎてビクともしない。
「影山さん!」
 井村さんが、俺に気付いてこっちに向かってくる。
 そこをおっさんが、抱きつくように捕まえる。
「やっと捕まえた」
 一瞬にして、井村さんの意識が飛んでしまった。
「やめろ、井村さんを離せ!」
 動く右足と両手をついて、前に進もうとするが、まったく動けない。
 おっさんに担がれて、井村さんの足が宙に浮いた。
「やめろぉ……」
 ハゲのおっさんがニヤリ、と笑って後ろを向き、公園の奥へ歩き始めた。
「ちきしょう……」
 その時、俺の視界の隅を、さっと、動く影が見えた。
 おっさんが立ち止まる。
「何者だ」
 おっさんと、おっさんが担いでいる井村さんのせいで、その先にいる者の姿は見えない。
「仲間を返してもらうか」
「仲間だって…… これは人じゃ…… まさか」
 可能なかぎり体をずらすと、おっさんの前にいる人物が、真っ赤なジャケットを着ているのが分かる。
「なんだ?」
 おっさんの前に立った真っ赤なジャケットの人物から、煙、いやオーラが発せられた。
 立ち上る煙のような、陽炎のような空気の動き。
 おっさんは怯えたように足が震えはじめ、肩に載せていた井村さんをゆっくりと、通路に寝かせる。
 暗くて遠くて良くは見えなかったが、真っ赤なジャケットの人物の顔がうっすらと見える。男だ。
「これでいいだろうぉ…… ゆるしてくれよぉ…… こっちはクライアントだぜぇ……」
 真っ赤なジャケットの男が、パッと手を払うような仕草をする。
「ひっ!」
 おっさんは一瞬にして、通路横の林に去って行ってしまった。
 赤いジャケットの男が、手をかざすと、井村さんの体が宙に浮かぶ。
 すーっと赤いジャケットの男の肩に引き寄せられるように移動していく。井村さんを担いで、赤いジャケットの男は公園の奥の方へと消えて行った。