俺は砂糖とミルクを入れてかき混ぜた。
「影山くん、あなた除霊士になりたいの?」
「えっ? なんでそうなるんですか?」
「井村さんとかを救いたかったんでしょう?」
 ん、俺はそのことを話していないはずだ。
「俺、なんか言いましたっけ?  
「足固められて動けなかった時、電話先で泣いてたし」
「な、泣いてませんよ」
 冴島さんは、スッとコーヒーを口に含んだ。
「……動機がなんであれ、除霊士を目指すなら手法は教えてあげる」
「うんと、俺、除霊士になりたいわけじゃ……」
 コーヒーを持った手をゆっくりと冴島さんの方に出して言った。
「同じことよ。正式じゃなければ、今回の違法降霊師と変わらないわ。除霊士になるためじゃなければ教えられない」
 冴島さんの表情は真剣そのものだった。
 半端な目的で、中途半端に除霊の術を知っている素人よりも、正しい目標に向かって勉強している者の方が術を正しいことにつかえるということだろうか。
 悩んだ末、ふと見るとコーヒーがなくなりかけていた。
 俺は決断した。
「……俺、除霊士を目指します」
 パチン、と冴島さんが手を叩いた。冴島さんが右手を差し出してくると、俺も右手を差し出して握手をした。
「これからは|弟子(でし)って呼ぶから」






「ほら、お客さん来てるじゃない」
 おにぎりを並べていたが、店長に言われてすぐにレジに戻る。
 接客をして、レジ打ちして、商品を渡す。
 おせぇんだよ、と言わんばかりに無言で睨んでいく客。
 それに対しては怒りの感情すら沸かなくなっていた。睨んだり、舌打ちするだけなら何も痛くない。そういうのには慣れてしまった。本当にイヤな客は、肉体的な接触がある。暴力、というやつだ。
「ほら、ぼーっとしてないで戻ってきて」
 俺はまた棚におにぎりをならべる作業に戻った。
 これが終われば、大学に行ける。
 そう思うと救われた。今の状況からすると、大学で勉強することが、肉体的、精神的にも楽だった。バイト先はこんな感じだし、家に帰れば冴島さんから除霊士のためのキツイ修行をさせられる。かと言って大学で寝ているわけではない。大学の勉強が新鮮で、楽しい、安らぐ、と心からそう思えていた。
 俺は服を着替えて、店長に声をかけて上がった。
 店を出て行く俺とすれ違うように、コンビニに女性客が入ってきた。
「ん?」
 振り返ると、女性も俺の方を見たような気がした。
 一重の瞳はすこし垂れ目で、唇も薄かった。顔はスッキリとほそい感じ。知っている女性、というわけではなかった。だが、間違いないのはバランスが良くて美人だということだ。しっかりメイクもしていて、ドキッとさせられる。
 しばらく入り口の端に避けて俺はその女性客の姿を目で追った。
 何度記憶にアクセスしてみても、知り合いではなかった。
「……」
 結局、俺が惚れっぽいだけなのだろうか、と思いながら大学へ向かった。
 午前の授業を受けて昼食を取って後、俺が受ける午後の授業が休講になっていたのに気づいた。
「どうしよう、時間が余った……」
 俺は冴島さんの言葉を思い出していた。『大学の勉強もあるでしょうから、少しでも時間のある時は私に連絡しなさい。そうしないと術は身につかない』そうだった。とにかく連絡をしないと。