女性は誰に向かってか、言った。
「あの、外、外に大きな『やっこさん』が」
 『やっこさん』という言葉が、すんなり頭の中で映像に構築されなかった。
 レジに隠れて、スマフォで『やっこさん』を検索する。『やっこさん』というのは『奴』つまり江戸時代の武家の中間(ちゅうげん)のことらしい。余計にわからない。
 検索結果を、画像、に切り替えてみる。
 なにやら人の顔がいっぱい出てくる。『やっこ』が愛称なのだろう。これのどこが江戸時代の中間(ちゅうげん)だというのだ。
 ふと、画像のなかで折り紙の『やっこさん』が表示されていて、俺は急に重大なことを思い出した。
 上村という女が言っている『やっこさん』とは、|俺(・・)|が(・)|作った(・・・)|式神だ(・・・・・)。
「まずい!」
 カウンターを飛び越え、コンビニの外へ出た。そして、畑の方を見る。
「……デカくなっている」
 さっき手の平から飛び立っていった式神は、俺の手の平に収まるほどの大きさだったが、今はバスケットボール選手が肩車しているほど、三、四メートルというところだろうか。
「なんで……」
 呆然としてしまった俺を、上村という女性がつっつく。
「あれ、あなたが作ったの?」
「えっ? いや、違……」
「……」
 上村さんが俺を疑うように見つめる。
「違います」
 折り紙の形の巨大な『やっこさん』が畑で、天に向かって叫んだ。
「ヴォォォ----」
 低く、唸るような声。俺は恐怖のせいか、背筋に寒気が走った。
「えっ?」
 『やっこさん』が何かを見つけたように、こっちに向かってやってくる。
 ゆっくりと、一歩一歩進んでくる。
「どうするの?」
「……」
 俺は畑の方へ進み出た。
 霊力で動いているなら、俺の霊力で破壊できるのではないか。
 撃ったことはなかったが、見よう見まねで霊弾を試してみようと思った。
 手でハンドガンのような形を作り、人差し指を『やっこさん』に向けた。
「……いけっ!」
 指先から何か光るものが走って、『やっこさん』の中心を貫いた。
「やった」
 俺は確信をもってそう言ったが『やっこさん』は全く変わらず、こっちに迫ってくる。
「ヴォォォォーー」
 再びの咆哮。
 立ち止まったかと思うと、急に怒り狂ったようなスピードでこっちに走ってくる。
 駐車場の下あたりで、ジャンプする。
 高く飛び上がった奴が、コンビニの駐車場に着地する。
 俺はバックステップして、十分な距離を保つ。
 『やっこさん』が降りた場所が、軽くひび割れてへこんでいる。
「助けて……」
「えっ?」
 折り紙の『やっこさん』の太い手が、上村さんを持ち上げている。
「助けてよ!」
「何を……」