二話です。

登場人物

新野真琴 : ショートヘアの女生徒で東堂本高校の二年生。頭痛持ち。頭痛の時に見る夢の中のヒカリと協力して精神侵略から守ることになった。

北御堂薫 : 真琴の親友で同級生、真琴のことが好き。基本冷静で優秀な女の子。

京町乙葉 : 生徒会長

佐藤充    : 副生徒会長

佐々木ミキ : 書記(1) 双子の姉

佐々木サキ : 書記(2) 双子の妹

上野陽子 : 剣道部部員








 体育館の床に、体が叩きつけられた低い音が響いた。
「大丈夫か?」
 倒れた男に、数人が駆け寄る。
「上野! 流石にやり過ぎじゃねぇか?」
 上野と呼ばれた剣士は、構えを崩そうとはせず、掛けられた言葉が全く耳に入っていないようだった。
「聞こえてんのかよ!」
 再度、問いかけたが、上野は構えたまま全く反応がなかった。
 この部員が倒れるまでに、数人が同じように打ち倒されていた。
 確かに上野は女子ではずば抜けて強かったが、この剣道部の男子達を打ち倒すほどの筋力や体格ではない。そういう意味でも何かがおかしかった。
 剣道着を着た男が竹刀をもち、間に割るように入って言った。
「どけ。俺がやる」
 ここには審判らしい人物はいなかった。
「郷田、よせよ、こんなの。もういいよ」
「上野さん、やめなよ!」
 周りにいた女子剣道部員も、上野に呼びかけた。しかし、その瞬間、上野の声がしたかと思うと、郷田への面が決まっていた。
 郷田が態勢を崩しているところに、続けざまに小手を打った。
「上野!」
「やめろって言ってんだろ!」
 打たれた郷田はしびれるのを耐えながら竹刀を構えようとすると、再び上野の高い声がして一足飛びに入って突きを放った。
「郷田!」
 郷田は仰向けに倒れた。
 危険な倒れ方だった。
「何だ、何をやっている」
 部活の顧問が用事を終えて体育館に帰ってきた。
「とにかく郷田を、救急車を」
 これまで無反応だった上野が、急に竹刀を手放し、先ほどまでとは別人のように、ふらふらと歩き始めた。
「上野?」
 郷田の防具を外している途中の顧問が、上野の様子に気がついた。
「上野、どうした」
 上野も膝をついたかと思うと、硬直したまま、うつ伏せに倒れてしまった。
 その後、救急車が複数台呼ばれ、騒ぎとなった。一部父兄も呼び出され、その日は緊急の教員会議が遅くまで行われた。
 これは東堂本高校剣道部始まって以来の事件となった。
 退学もやむなし、部活動に支障がでるだろうと思われた。しかし、上野本人が高熱のせいか記憶がないこと、幸いなことに郷田や他の被害があった部員達も大きな怪我がなかったこと。そういったことと、日頃の上野の部活内での状況を踏まえて、事を学校内のことで収めることになった。
 上野陽子は熱もあり頭痛がするということがあり、病院で精密検査を受けたりしていた。結局、一週間ほど学校を休んだのだが、特に異常も発見されず、次の週には学校に復帰した。
 郷田も脳の精密検査などで三日ほど入院したが、退院の次の日には学校に来ていた。
 それぞれが学校に戻ると、ほどなくその事件のことは誰も語らなくなっていた。