結局、カーテンのところは意味もない為、左右にある棚の影に分かれて隠れることになった。この狭い空間で、そこにいて隠れたことになるのか別だった。
 用具室には部活動の音だけが部屋に響いていた。
 何十分、いや数分だろうか、三人が黙って扉があくのを待っていた時、薫のスマフォが振動した。
 薫にメールが来ていたのだが、差し出し人がメラニーだったので、タイトルと数行だけだろうと思ったが、妙に変な内容で長かった。長かったので、すべてをよまないまま、『リンク』をチェックした。
 リンクには覚えのない相手の名前でメッセージがあった。『気をつけろ』それを読んで薫は不安になった。自分の電話帳データに細工され、それが同期されたのではないか、と考えた。メラニーからの不可解なメールの内容になにか引っかかるものを感じた薫は、もう一度メールに戻って内容を確認しようとした。
 その時、扉が開いた。
「どうぞ」
 佐々木サキが入るように促すと、上野が入ってきた。薫はメールの確認を後にして、スマフォをしまった。
「あれ? こんなに何もなかったでしたっけ?」
「今は別の用事で用具を出しているの。最初の用事が終わったら片付けを手伝ってもらうわ」
 生徒会長が入ってくるなりそう言った。
 サキは生徒会長が入るのを確認して再び扉を閉めた。
 薫は、この部屋の片付けを上野さんにやらせようとしているのか、と言うことに驚いてしまった。が、この用具室の道具を一時的に外に出すのにも、別の部活の生徒を使ったに違いない。それだけの権限があるので、上野をここに連れてくることができたのだ。薫は三年になったら生徒会長をやるも悪くない、と思った。なれるのかは別にして。
「では、言ったようにちょっと目隠しさせてもらうけど」
 というと、ミキは用意していたアイマスクを取り出して上野につけた。
「こっちにきて座ってください」
 そのままエバーマットに座るように手を引くと、上野は後ろ歩きにエバーマットに乗り、促されるまま足を放りだした格好で座った。
「ではお願いします」
 ミキが真琴に来るように手招きした。
「え?」
 小さい声で薫に言った。
「私もどうするか聞いてない! とにかく行って触れればわかるんじゃない???」
 薫も小さい声で言った。真琴はなんとなく頷いて、上野の方へ行った。
 真琴がエバーマットの上にあがり、上野のそばに行ったが、どうして良いのか戸惑っていると、生徒会長が言った。
「この生徒には頭痛に効果のあるマッサージをお願いします。先生」
 真琴は、声を出して良いものか悩んだ挙句、奇声に近い、高い声で返事をした。
「ワカリマシタ、イイデショウ」
 真琴はどこに触れるとマッサージのようになるかを考え、上野の首筋に触れた。肌が出ているところだけをするのも変に思われると思い、肩をもんでみたり、眉間からこめかみにかけて、触れたりした。
 真琴の中のヒカリの反応が現れた。
 真琴の頭痛が始まったのだ。
 上野も特に横になっていただけだったのに、額に汗が滲んできた。
 真琴は正座をした格好で上野の頭を膝にのせ、首に触れている状態で目を閉じた。上野はアイマスクの為に判らなかったが、眠っているように反応がなかった。
「うるさいな」
 薫はスマフォの振動に、忘れていたメラニーからのメールを思いだした。
 そしてスマフォを取り出すと、メラニーのメールをみた。どうやら『リンク』に加わったメンバーは、電話帳データがハッキングされたとかではなく、薫の父の指示に従ってメールを送ったことで追加されたものらしい。そのメンバーは信用に足る人物である、というところまでしか判らない、というのが父の伝言だったらしい。
 薫は、もう一度『リンク』を開いた。
『気をつけろ』
 さっきのメッセージだった。
 するとその瞬間、
『薫くん、真琴が危険だ!』
 と新しいメッセージが表示された。
「え?」
 真琴の方をみると、真琴の手が上野の首から離れてしまっていた。上野が上体を起こしてアイマスクを取り、真琴に襲いかかった。
「あぶない!」
 薫は棚の影から飛び出して真琴と上野のところに駆け寄った。
 真琴は反応ができず、エバーマットに倒されたままだった。上野が上着を脱いで真琴の上に馬乗りになり、脱いだ上着を真琴の首に巻いた。
「やめて!」
 そう言って、薫が体をぶつけに行ったが、上野は低い姿勢をとって威力をそいだ薫は上野の腕をとって引き剥がそうとした。
「手伝って!」
 薫は動揺したのか動けない生徒会長や佐々木に声を掛けた。三人掛かりならなんとかなるはずだ。上野が素手で締めるのではなく、上着を使ってきたところに、恐怖を覚えた。
 一つは本当に殺しにかかっているという意味、非力な女性が素手で首を締めてもなかなか死にはしない。道具を使って締めるのは危険だ。
 二つ目は真琴と直接接触してしまえ戦いは夢の中に入ってしまい、夢では真琴達が有利なことを知っている、という点だ。
 夢の中なら、上野、真琴、ヒカリが味方になるので上野の力を使えない分、相手は不利なのだ。
 三人のちからで首が締まることは回避出来そうだったが、真琴の上からは引き剥がせそうになかった。上着が首に巻き付いているのをなんとかしないといけない。
「真琴、真琴!」
 苦しそうな真琴が、声に反応してようやく目を開いた。
「上野さんに触って!」
 真琴が上野の手に触ろうとした時、上野はいきなり上体を激しく振った。
「痛い」
 佐々木と会長は、びびって手を離してしまった。薫は脇腹をひどく打ったが、上野の上着は離さなかった。
 真琴は上野が自分の上に乗っていることを理解し、太ももを触った。
 再び強い頭痛に襲われた。
 上野は太ももに置かれた手を払おうとするが、上着を薫に握られている為に手を離すことができない。肘で叩いたりどかそうとするのだが、出来ない。
「クソウ」
 上野が声を出した。一度上着を離して真琴の手を払おうとした瞬間、そのまま倒れてしまった。
 真琴顔の上に上野の腹がのったような格好になったまま、二人は動かなくなった。
「大丈夫?」
 佐々木ミキが下になっている新野が苦しいだろう、と考えて上野をどかそうとした。
「だめ!」
 薫はそれを止めた。
 上野と真琴が接触していないと戦えない。無理に上野をどかすと、その接触が絶たれてしまう。おそらく、その状態がさっきの凶暴な上野なのだ。
「と言っても、このままじゃ、真琴が苦しいのは確かね」
 リアルな肉体が苦しければ夢の中でも調子が悪かろう、という程度の考えだった。
「どういうことになっているか、簡単に話すわ。信じてもらえるか、判らないけど」
 薫は、生徒会長とミキにどうすると頭痛があって、どうすると夢を共有できるのかを話した。そこで戦って勝つことで、相手を侵略しようとしているものを追い出せる。
 生徒会長は終始無言で微動だにしなかったが、理解はしてくれているようだった。佐々木はうなずくことはあったが、見えている事実のみを把握したようだった。
「とにかく、服の上、とかではなくて直接肌が接していればよいのよね?」
「そうです」
「うーんと今は…… 二人、どこが接しているんですかね?」
 あれ? そういえばどこが接しているのか… と薫は思った。
「…まずはそこを確認しましょう」