真琴は、苦しい戦いを強いられていた。
「何故同じような戦いが出来ない? 同じものを思い出そうとしたのに」
 真琴は、品川と戦ったのと同じ話を思い出し、同じように勝つつもりだった。しかし、出てくる敵も違い、まったく思った通りに動かない。
 問いかけられたヒカリは、
「それは私にも判らない。これは単に記憶を再生するのは違う何かが働いているのだとしか」
「自分の意思や意識の世界ではないの」
「当然、意思や意識の世界だ。だが相手の意思や意識の世界でもある」
 上野をさらった敵は、昆虫を模した姿をしており、上空からの攻撃をする。真琴もジャンプしたりして対抗するのだが、空中での動きの自由度とスピードが違い過ぎ、歯が立たなかった。
「なんだ、こっちでも弱いじゃねーか」
 昆虫のような敵は続けた。
「前の奴が簡単に負けたから、精神世界では戦わないようにしてたんだが… 杞憂だったな」
 急降下して、変身している真琴にハサミのような角をぶつけてきた。衝撃で倒れて転がってしまった。
「うっ…」
 真琴は立ち上がれず、上体を起こすのみだった。左手で攻撃を受けた右肩を押さえた。
 敵は再び降下してきた。真琴は避けようとしたが、立ち上がれずに倒れてしまった。
 低い姿勢になったことが幸いし、敵の攻撃は当たらなかった。
「まずいよ。ヒカリ、何か方法はないの?」
「夢なのに何故コントロール出来ない?」
「ボク自在に夢を見れたことないんだよ」
「この前はうまくいったよ」
「出来ないんだよ、だからきいてるのに!」
 真琴は怒りがこみ上げてきた。
 がんばって勝つイメージを作ろうとしているのに、その通りにならない。真琴は力を振り絞って立ち上がった。
「馬鹿め!」
 バシッ、と大きな音がして火花が散った。角が真琴の体を痛めつけている。再び音とともに火花が散った。痛みが全身に走る。
 真琴は思いだしていた。子供もみる番組では血を描くことを避ける。ヒーロー達はその姿から血が流せないかわり、この火花でダメージを表現する、という決まりなのだ。
「表現の問題なんかじゃないよ…」
 自分の身に降り掛かっている事実としてこの痛みとダメージがある。夢とは言え、見ている時とは立場が違った。
「とどめだ!」
 昆虫怪人は首を左右に振り、角を真琴にぶつけた。右から素早く、左から戻し、同じところをしつこく攻撃した。
 ついに真琴は立ち続けられなくなり、地面に転がると、変身が解けてしまった。
「うあぁぁぁぁ!」
 なす術もなくやられてしまうのか、真琴は恐怖を感じた。