昆虫怪人は、真琴目がけて急降下してきた最初は頭の角をつかうつもりだったようだが、急に姿勢を変えて足を突き出して蹴ってきた。
 真琴は覆いかぶさって背中の翅(はね)を刺すつもりで用意していたせいで、蹴りを食ってしまった。
「もう少しだったのに」
「お前の考えなぞ御見通しだ」
 真琴はふたたびカマキリのように剣を構えた。
 昆虫怪人は同じように頭から降下してきて、急に態勢を変化して足を突き出してきた。
「そこだ!」
 真琴は怪人の足を掻き分けるように手で開くと、脇に挟みこんだ。
「何!?」
 怪人は飛ぼうと翅(はね)を激しく動かすが、飛び上れなかった。
 まさか飛べなくなるとは思っていなかったが、これはこれで結果オーライという感じだった。
「見た目以上にデブなのか?」
「酷い! そんなことないよ!」
 真琴は体を捻って怪人を地面に叩き付けた。
 鈍い音がして、怪人の右の鞘翅(さやばね)と後ろ翅(はね)がグシャグシャになった。
「よし、これで飛べない」
 真琴は二つの剣の柄と柄を合せた。
「アセンブル!」
 剣が繋り、大きな剣となった。
 剣を振うと、昆虫怪人の左の翅(はね)から火花が飛び散った。
 深呼吸して剣を突き刺すと、大きくジャンプした。
「バレルロール・キック!」
 筒に沿うように螺旋を描き、怪人に蹴り込んだ。
「まさか…… そんなわけは…… 」
 敵は、よろよろと逃げていくが、力尽きたように倒れた。
 爆音と閃光が広がり、敵は砕け散った。
 
 バイクの音がやってくるのが聞こえた。
「新野さ〜ん」
 バイクの後ろにいる娘が言った。
 真琴は変身を解くと、やってきたその娘に言った。
「良かった、無事で」
 バイクから降りた娘は、真琴と同じぐらいか、大きい感じだった。
「ありがとう、ありがとう」
 真琴は娘に抱き付かれた。
「上野さん… だよね?」
「そうだよ〜 ありがとう!」
 抱きしめる力が強く、真琴は苦しくなってきた。
「上野さん上野さん、苦しい、苦しいよ…」
「ごめんごめん、でももう一度ぎゅーする!」
 と言って、抱きしめた。
 真琴は笑った。
 上野も笑った。
 バイクを降りたヒカリも近づいてきて、笑った。
「勝った。本当に危なかったけど… 良かった」
 ヒカリは空を見上げた。