薫と真琴が堂本駅を降りると、東堂本高校の方へと歩きだした。薫はホームを歩きながら、何者かの視線を感じていた。
 学校の敷地に入ってもずっと視線を感じていたが、真琴には言わなかった。
「そこからこんな風に敵の足を掴んで…」
「あれ? 何か連想するものがあるわ」
「そうでしょ? ボクも思ったんだ」
「夢の中の進行と、私達がしていたことがリンクするとは思えないな…」
「けど、そうなんだ、というか、そう思う。ヒカリには確認していないから、ボクの感じでは、だけど。きっとリンクしているんだよ」
 夢と現実がリンクする、か… 確かに風邪をひいて熱のある時の夢変だったりするな、と薫は思った。完全にリンクする、かどうかは別として、ちょっとでも影響はあるのだろう。
「あ、リンクで思い出したんですが」
「なに? 上野さんの部活復帰の話?」
「ああ… そんなこと書いてたね。京町先輩が色々助けてくれた、とか」
「あの時は挨拶も出来なかったけど」
「京町さん、いつの間にか消えてましたからね。でも、その件じゃないの。コレ見て」
 と『リンク』の画面をスクロールして、先日の体育準備室のあたりのタイムラインを見せた。
「何この爺さん… あれっ?」
「そうなんです。真琴と上野さんの接触が途切れていた時、メッセージを送ってきたんです!」
 薫は凄い発見をしたような感じにそう言った。
「ただこのIDはまだ色々と判ってないことが多くて…」
「山本昭二ってなんか記憶があるんだよね」
「え?」
 『リンク』の表示名程度にしか思っていなかった薫は、ちょっと驚いたような表情を見せた。この『山本昭二』は検索サイトでも調べたけど、何もなかったはず。真琴は何を知っているのだろう?
「思い出したよ。思いだしたんだ。だけど、言ったら笑われる」
「笑わないよ。言って?」
「母方のおじいちゃんの名前なんだ」
「なるほど」
「そうじゃないんだ、2年前だったと思うけど、亡くなってるんだよ」
「おそらく、そういうつながりを知っているものが使ったんでしょう」
 あのタイミングで指摘するのだとしたら、そのくらいの身辺情報を掴んでいても変ではない、薫は思った。
「え? 変だよね? 死んでるのに『リンク』でメッセージ送ってくるなんて」
「もちろん。これは真琴のおじいちゃんではないわ」
「でも山本昭二は…」
「こういうのはカタリというのよ」
「いや… そ、そうだよね… 普通は…」
 真琴はそれ以上言い争うのをやめた。
「新野さん、北御堂さん」
 突然、男子生徒から声を掛けられた。ネクタイはエンジ。三年生の学年カラーだった。
 薫は駅からの視線の主がこの男だったと判った。
「おはようございます。佐藤先輩」
「薫知ってるの?」
「(副生徒会長さんよ。それより、まずご挨拶でしょ)」
 と小声で言った。
「おはようございます」
「おはよう、新野さん、北御堂さん」
 と会釈した際に、副生徒会長の後ろに誰かの姿が見えた。
「あっ!」
 真琴も後ろの人物が見えたらしく声を出した。
「(真琴!見えないことにしてやって)」
「(生徒会長さんでしょ?そうでしょ?)」
「(いいから!)」
「あの、お話をしても構いませんか?」
 佐藤充は話を続けた。
「先日は剣道部の上野さんを助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ。それより後ろにいるのは生徒会長の京町さん?」
 全く表情を変えずに続けた。
「臨時に運営員として、生徒会の活動を手伝っていただきたいのですが?」
「へ?」
 薫は来たな、と思った。今回の一件で、カーテンとプロジェクターを使った演出をするあたりから推察する限り、京町はこういう非日常的な出来事は大好物、という印象をもっていた。
「もちろん、北御堂さんも含めてです」
「薫も? ボクは暇だから良いんだけど。薫できるの?」
 薫は真琴に頷くと、佐藤の方を向き、
「真琴がやるなら私もやります」
 と言った。
「では、二人共よろしくお願いします」
 と言って頭を下げた。
 やはり後ろにいる京町乙葉らしき影が見えたりしたが、佐藤は構わず、
「生徒会長には私から伝えておきますので、大丈夫ですよ」
「そうですか。よろしくお願いします」
「(え、だってそこにいるじゃん)」
「(いいから)」
「よろしくお願いします」
 佐藤は微笑み返した。
 薫と真琴は再び校舎へと歩きはじめた。
「ボク、ついていけるかな…」
「ああ、京町会長? 意外といい人かもよ」
 用具室を開けられそうになった時の対応などを思いだしていた。
 生徒会として活動することで学校内ではやりやすくなった半面、上野がされたように先に肉体を乗っ取ってくる場合の対処を考えないと致命的なことになりかねない、と薫は思った。
 敵は品川の時の情報を共有している感じだった。これは一層の注意が必要だ、と真琴は決意を新たにした。