その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

カテゴリ: 非科学的潜在力女子

「ちっ」と亜夢が言った瞬間、背中に誰かにぶつかった。
「あっ!」
 尻もちをついている女子高生がいた。
「ご、ごめんなさい」
 亜夢が手を伸ばすと、女生徒は素直にその手に捕まった。
「ありがと」
 強い手ごたえがあって亜夢が引き起こすと、女子高生はスカートのホコリをはらった。
 それが終わると、顔を上げて亜夢を見た。
 長い髪をポニーテールにしていた。
 瞳は大きく、二重だった。さっき通りすぎた|娘(こ)達と同じ制服、同じように短いスカート。
 亜夢はその|娘(こ)に都会っぽい精錬された雰囲気を感じた。
「あの子たちの言うことなんか気にしない方がいいよ」
 そう言って亜夢に微笑んだ。
「あれっ? どこかで」
 亜夢がそう言った時には、女生徒は女子高生の流れの中に消えて去ってしまった。
『どこかであった気がする』という言葉を亜夢は飲み込んだ。
「かっこいいなぁ……」
 どこにいるのかわからないが、去っていた方向をみながら独り言を言った。
 後から後から歩いてくる学生が、ぶつかりそうになっているのがわかる。
 亜夢はその流れに逆らうように歩いて、小さなカフェを見つけ、そこに入った。
 カフェで食事をしながら、外の学生の流れを見ていた。
 カフェの中にも、同じ制服を着た子が数名いた。
 その学校に興味を持った亜夢は、キャンセラーを外し首にかけた。
「……だって」
「不眠症か…… 不眠症ってさ、超能力者がよくなるんだってウワサだよ」
「えっ、美優が超能力者だっていうこと?」
「完全にイコールじゃないけどさ。可能性はあるんじゃない」
「(美優…… どこかで……)」
 亜夢は誰にも聞こえないような小さい声でつぶやいた。

 大通り沿いに立っている世界的なアパレルブランド。
 ガラス張りの建物の中に、キラキラ光っているような、若くて綺麗な娘が服を見ている。
 さらに奥から、テレビでしか見たことのないような、綺麗に髪をアップにまとめた、妙齢の女性が…… おそらくその若い娘の母であろう…… 店員と話しながら、ちらちらと娘の方を見ている。
 モデルのようなスタイルの金髪の女性がその店のドアを開けると、中の声が聞こえてくる。
「みゆ、欲しい服はきまりましたか」
 ガラスのドアの角度のせいか、その声がはっきりと亜夢の耳に聞こえる。
 店内にいたキラキラ光っているかのような娘がその声の主…… 髪をアップにした女性に振り向く。
 そして、何かに気付いたように亜夢の方に視線を向ける。
 亜夢と娘の視線があった。
 すると、その娘が少し微笑んだ。

「そうだ、さっきのあの|娘(こ)」
 今度ははっきり聞こえるような声を出してしまった。
 亜夢はとっさに口に手を当てた。制服を来た娘達は、話をやめ、ゆっくりと亜夢を見てから、また話をつづけた。
「はぁ…… (なんであの時気づかなかったんだろう)」
 小さい声で亜夢は自分に言い聞かせるように言った。
 都心に来て、初めてみるようなキラキラした世界の中にいる、キラキラした女の子、それが|美優(みゆ)だった。
 しかも美優が超能力者かもしれないなんて…… 亜夢はあまりの展開に気持ちを抑えられないでいた。
 すぐにでも出て、この通りを追いかければ……
 残りのパンを口に詰め込み、ストローをはずして氷ごと口に流し込むと、キャンセラーをしっかりと付けて店を飛び出した。
 カフェのあたりでは、制服の女生徒の流れはなくなっていて、亜夢はそのまま走り出した。
 ホテルのあたりまで戻っても制服の子は見当たらない。
 そのまま走っていくと、地下鉄の駅の入り口までやってきていた。
 その先にも制服の子はいない。
「(この下?)」
 階段を駆け下りていくと、改札の向こうに何人かの制服の女生徒が見えた。
 亜夢は改札内には入れないから、平行してどこかにいないか探すが、ホームはさらに下にあるらしく、他の女生徒を見つけることは出来なかった。
 亜夢はぼんやりとしばらく地下を歩いていると、自分の位置を見失っていることに気付いた。
「(えっ、迷った?)」
 とにかくまっすぐ歩いていると、案内図が出てきたが、案内図を見てもどこから入ったのかが分からないため、まったく役に立たなかった。
「(とにかく地上に出よう)」
 すぐ近くの階段をのぼって地上に出た。
 そこは大通りの例のブランドショップが並ぶ場所だった。
 並木からの木洩れ日で、自分の服に模様が描かれたように見える。
 すこし歩くと、ガラス張りのブティックが見えた。
「(ここ、美優がいたところ)」
 亜夢はうっとりとした表情で、横を向いて歩いていると、不意に声をかけられた。
「さっきの」
 ビクッと全身が震えて、正面を振り向いた。
「美優?」
「えっ? あなた私のこと、知ってるの?」
 さっきの制服の|娘(こ)が、紙袋をさげてそこに立って、亜夢を指さしている。
「えっ、あ、いや、あの……」
「どこで調べたのかな? いや、いいや。あなたの名前を教えて。それでアイコでしょ?」
「あ…… |亜夢(あむ)です。|乱橋(らんばし)亜夢」
 ポニーテールの、キラキラした女の子は、おどおどした亜夢を見て微笑んだ。

 加山のスマフォと清川のパトレコを接続する。
 パスワードの入力画面になったところで、加山は清川にスマフォごと渡す。
「ほら、パスワード入れろ」
「あの、おトイレいったりしたので、今は勘弁してください。署に戻った映像提出しますから」
「ダメだ」
 加山が清川をにらむ。
 清川は亜夢の顔をちらっと見やる。亜夢は祈るように手を合わせている。
 清川の視線に気づいたのか、加山が亜夢を見る。
「乱橋くん、もしかして君が清川くんに?」
「……」
 合わせていた手を、背中にまわして、亜夢はぎゅっと口を結び、加山の質問に答えない。
「清川、指を出せっ」
 加山はパッと清川の手を掴むと、スマフォに指を押し付けた。
「なっ……」
 指紋認証機能をつかったのだ。
「ここまでの映像はこっちで引き取らせてもらうぞ」
「プ、プライバシーの侵害……」
「映像は移動させて消しておくから大丈夫だ」
「……」
 清川が半べそをかいているをの見て、亜夢が抱きしめる。
「(こっちが先にコピーしてあるんですよね)」
 亜夢が清川の耳元で囁くと、清川は小さくうなずく。
 亜夢は清川の肩を抱きながら、加山の後ろを二人で歩いた。
 しばらく歩いていると中谷が追いついてきたが、何か雰囲気を感じ取ったように、静かに後ろをついてきた。
 パトカーを駐車しているところまで戻ってくると、加山が言った。
「今日の捜査はここまでだ。乱橋くんは今日からはホテルの方で宿泊になるから、昼食をとったら清川くんに付き添ってもらって、荷物をもってチェックインしなさい」
「……」
 亜夢はムッとしたまま答えないので、かわりに清川が返事をした。
「わかりました」
 中谷が住職のところへ挨拶して帰ってくると、パトカーは署へ向かって走り出した。
 署につくと、清川と亜夢は仮眠室においてある亜夢の荷物を取りに入った。
 チェックが終わると清川が亜夢をつついた。
「なんですか?」
「さみしいなぁ……」
「まだ捜査は打ち切られたわけじゃないから、明日も会えますよ」
「亜夢ちゃんの部屋に遊び行ってもいい?」
 そう言われて、何か考えているようだった。
「ごめんごめん。なんか変なこといっちゃったかな?」
「……すこしなら。いいですよ」
「うん、もちろんだよ。じゃあ、ちょっと帰りに寄るね」
「時間が分かったら先に知らせてください。お風呂入ってるかもしれないんで」
「わかった。じゃ、アカ教えといて」
 亜夢と清川はアカウントの交換をした。
 署を出ると、清川は警察署の通りの向かいにある、ビジネスホテルへ案内した。
 ロビーでの受け付けを手伝うと、部屋の前まで行った。
「ありがとうございました。今日はすこしゆっくりします」
「そうするといいわ。警察署で寝泊まりなんてゆっくりできなかったでしょうから、横になって疲れをとるといいわ」
 帰るかと思って扉を開けたまま待っていると、清川は立ち止まった。
「加山さんだけど、捜査のじゃまをしようとしているんじゃない、と思う」
「……」
「根拠はないけど。だから信じて捜査に協力してね」
「……」
 清川は軽く手を振ると、エレベータの方へ歩き始めた。
 亜夢は部屋の扉を閉め、荷物を置くと、靴を脱いでキャンセラーを付けたままベッドに横になった。
「はぁ……」
 天井を見つめているうち、亜夢は寝てしまった。
 
 
 寝返りを打った時にキャンセラーが外れたのか、亜夢は酷い頭痛とともに目が覚めた。
「うわっ……」
 スマフォを見ると3時を回っていた。
 お腹が鳴って、昼を食べていないことに気付く。
 清川はまだ勤務だ。
 どこで何を食べるか全く思いつかなかったが、とにかくロビーに出て、鍵を預けると通りを歩き始めた。
 向かいから女子高生が固まって歩いてくる。
 短いスカート、無造作に下した髪、色はついていないが、ピカピカした唇。
 ヒカジョの連中とは違う、と亜夢は思った。
 その女子高生から視線を感じた。
 どの|娘(こ)が見ていたとはわからなかったが、すれ違いざま「ダサ」と言われた。
 亜夢が振り返ると、三人が横目でこっちを見ていた。

「さっき『ヘッドホンかわいいですね』って言われた後、どこからか探査されたような気がするんです。ものすごいトゲトゲの針が頭を刺してきたような……」
 手の平を叩いて、清川が気付いたように言う。
「あれだ、辺りを見回してた時のことだ」
 亜夢はうなずく。
「何か、引っ掻いてきたような感覚があったんです。私を探している、というか」
「早速調べようよ」
 亜夢は首を振る。
「三崎という人なのか、三崎という人じゃないどこからか…… そこが確信持てないんです」 
「だから見回した」
「そうです」
 亜夢と清川が同時に肩を叩かれる。
「おい」
「!」
 パッと亜夢は干渉波キャンセラーを耳から外す。
「……なんだ、加山さん」
「どこほっつき歩いてるんだ」
「亜夢ちゃんが超能力で反応するフロアを調べたんですよ」
「いいか、一人で行くな、と言ったが、だからと言って、無断で行っていいは言っていない。今後は一言こちらに言ってからいくんだな」
「……」
 亜夢は加山をにらんだ。
「それじゃ、言ったら二人で調査させてくれましたか?」
「……」
「清川さんと先にパトカーに戻ってます。いいですか?」
「……ああ」
 亜夢は清川の手を引き、一階のホールをスタスタと去っていった。
 遅れてきた中谷がたずねる。
「加山さん、どうしました?」
「……」
 加山は亜夢たちを追うようにフロアを歩き始めた。
「えっ、どこに行くんですか、加山さん!」
 中谷は追いかけた。
 
 
 
 ぐいぐいと手を引かれて、清川は何度か転びそうになった。
「亜夢ちゃん、いったいどうしたの?」
「……」
「加山さん、なんか変だった?」
「変ですよ。私が呼ばれて警察署に入った時から」
「なんのこと?」
 清川は立ち止まった亜夢の正面に回り込んだ。
「捜査させたくないみたいなんですよ」
「そんなことないでしょ?」
「何かかくしている感じなんです。情報を隠して、わざと捜査を遠回りさせているような」
 亜夢は清川のパトレコを指さし、「この中の情報、加山さんに渡す前にコピーとっておけませんか?」
 清川はスマフォを取り出し、パトレコを接続した。
 スマフォに桜の大門が表示され、パトレコの内容を保存する操作をしてくれた。
「はい。これでとりあえずコピーは取ったわよ。これは個人のパスワードがないと消せないから」
「ありがとうございます」
 カツカツ、と足音が聞こえた。
 亜夢は小さい声で清川に指示した。
「スマフォしまってください!」
「どうした、清川」
 慌ててスマフォをポケットにしまう。
 加山はじっと清川を見る。
「なんか変ですか?」
「……清川、パトレコはどうした」
「へっ、あ、ポケットにいれてました」
 慌てて胸に付けなおそうとすると、加山がそれをつまみあげる。
「さっきどんな捜査をしたか、見せてくれ」
「あっ、ちょっとそれは」

 清川がちらり、と亜夢を見る。
 亜夢は人差し指でそっと顎に触れ、首をかしげていた。
「そのお休みの時は何をなさってましたか?」
「……」
「それ、言う必要あるでしょうか」
 口元が見えないせいで、三崎の表情がムッとしているのかわからない。
 声の感じも、怒っているのか冷静なのかが判断できない。
「いえ。あくまで参考までにお聞かせいただければ、というだけで」
 そう説明しているのは清川なのに、三崎は亜夢の方を見ていた。
「……そうですか。自宅にいました。それだけです」
「ありがとうございます」
 何かを読み取ろうとしているかのように、三崎がじっと亜夢を見つめる。
 三崎のマスクがもぞもぞと動いた。
「あの、そのヘッドホンかわいいですね」
「あっ、これヘッドホンじゃ……」
 言いかけて、亜夢は『じゃなくて、これはキャンセラー……』と、言ってはいけないことに気付いた。
 亜夢は誰かを探すようにあたりを見回した。
 清川がそれに気づいた。
「?」
 亜夢は清川の顔を見て、それから三崎の顔をみた。
 ヘッドホンを耳に当てなおして、言った。
「そうですか。ありがとうございます」
 三崎は首を傾げた。
「?」
「質問は終わりです。ご協力ありがとうございます」
 三崎は立ち上がり、亜夢を一二度見てから、奥のオフィスに戻っていった。
 亜夢と清川は相談して後一人についてどうするかを話し、今回はあきらめることにした。
「長々とお邪魔してすみませんでした」
 オフィスの外に出ると、そう言った。
 最初に出てきた女性が、エレベータホールまで出て見送ってくれた。
 一階まで降りて、エレベータを出た瞬間、清川のスマフォが震えた。
「加山さんだ……」
 困ったような顔で亜夢を見た。
「けど、出ないと」
「もしもし」
 言った瞬間にスマフォを耳から遠ざけた。
 かなりの音量で、亜夢も目をまるくしていた。
「加山さん、すみません」
 亜夢は手を合わせて清川に謝るようなポーズをした。
「います。大丈夫です」
 清川は亜夢に指で行先を指示しながら、言う。
「いきます、すぐいきます」
 小走りに走りながら、清川はたずねる。
「最後の人、なんなのかな?」
 亜夢も追いかけるように走りながら、答える。
「何かあると思います。もしかすると、超能力者なの、かも」
「えっ!」
 清川は急に立ち止まる。
 亜夢はかわしきれずに清川にぶつかる。倒れそうになる清川を抱きとめた。
「ご、ごめんなさい!」
「えっ、いいのいいの。うん。ごめんなさい、というよりごちそうさま、って感じかな」
 二人はゆっくりと体を離した。
「?」
 亜夢が首をかしげると、清川は言った。
「超能力者同士って、相手を認識できるの?」
「学園ではそうですね。テレパシーを感じます」
「えっ、じゃ、さっきの…… 三崎とかいう人からも」
 亜夢は黙って清川を見つめる。
「ちょっと違うんですけど…… 似たような感覚はありました」
「ちょっと違う? 超能力者じゃないの?」

「ありがとうございました。すみません、それでは次の方をお願いします」
「あ、私で最後なんですけど」
 亜夢が清川に耳打ちした。
「私達が来たときに、外ですれ違った方がいるはずですが」
「?」
 首をかしげる。
「ちょっと待っててください」
 そう言って奥へ戻っていく。
 何人かが話し合う声が聞こえる。
 最初に出てきた女性が一緒に戻ってくると、清川に言う。
「そのすれ違った人って…… 男の人でしたか? 女のひとでしたか?」
 清川は目を泳がせて、亜夢のに助けを求めた。
 亜夢がまた耳打ちする。
「ちょっとどっちか分からなかったです」
「お客様のところへいったり営業に言ったりしているので、どの者かはわかりませんが……」
「じゃあ、今日お話聞けなかった人。その人達の名前だけでも教えていただけませんか?」
「名前を? 本人の承諾は取れないし……」
 最初に出てきた女性の人が、訝しげにこちらをみる。
「その人、なんなんですか。若い感じだし、格好も刑事さん、ってわけじゃないでしょう?」
「捜査上の秘密です。この人は関係ありません」
「清川巡査っておっしゃいましたよね。あなたの方も、本当に警察の人ですか?」
「なっ……」
 清川は警察手帳を見せた。
「なんなら電話してみてください」
「じゃあ、遠慮なく」
 女性はスマフォで警察に電話した。
「○○署の婦警だという清川あゆ、という方がここに来ているんですけど…… 間違いないか確認してもらえませんか」
 清川は腰に手を当てて立っている。
「……はい。 ……はい」
 タキオ物産の女性は少し申し訳なさそうな表情に変わる。
「はい。分かりました。ありがとうございました」
「……いいでしょうか?」
「疑ってすみません」
「では、その今日いないお二人のお名前を教えていただけませんか?」
「本人の承諾がないので話せません」
「これは捜査なんです」
「ダメです」
 決意は堅そうだった。
 清川は首を振り、亜夢も納得いかないようだったが、しぶしぶ首を縦に振った。
「わかりました。それでは……」
 立ち去ろう、と扉を向いた瞬間、ドアノブが回った。
「!」
 扉が開いて、このオフィスに入る前にすれ違ったと思われる、マスクをした人物が入ってきた。
「……」
「すみません、ちょっとお話を聞かせてもらっていいですか?」
 様子を見るような目つきで、ゆっくりとうなずく。
 亜夢と清川は、その人をつれて再びテーブルに戻った。
「あの、お名前をうかがっていいですか」
「……」
 清川は警察手帳を見せる。
「あっ、警察の方、ですか?」
 マスクの人物は、初めて声をだした。
 声からすると、女性で間違いなかった。
 制服の警官をみても警察と思われないのか、と清川はうなだれた。
「三崎京子と言います」
「あの、失礼ですが、マスクを取っていただいていいですか?」
 突然、亜夢がそう言う。
「?」
「こちらは捜査協力者です。すみません、私からもお願いします」
 三崎はとまどいながらもマスクをとった。
「これでいいですか?」
 薄くだが綺麗なピンクの口紅をしている。
 マスクをしていると中性的で男性とも見えなくはないが、性がどちらにせよ美形に違いなかった。
 亜夢がうなずくと、清川はそれを見て「ありがとうございます。結構です」と言った。
 三崎はまたマスクを着けなおす。
「このビルの付近で警察官に電撃を放った超能力者の事件、ご存知ですか?」
「はい。騒ぎになりましたから」
「当日はどちらに?」
「私は会社をお休みしていました。翌日きたら大騒ぎしていたんで、その時知りました」

「?」
 念入りに各フロアのプレートを触っているのをみて、清川が口を開く。
「……何やってるの?」
 亜夢は目をつぶって手を動かしている。
「……」
 ポン、と清川が亜夢の肩を叩く。
 ビクッとして亜夢が目を開けると、フロアの案内をもう一度上から下までなめるように見て、言う。
「ここ…… ここに行きましょう」
「六階ね。何があるの?」
「わかりません。けど……」
「けど?」
「何かいる気がします」
「それが超能力ってやつね」
 亜夢が静かにうなずいた。
 エレベータの呼び出しボタンを押して、二人で待った。
 下ってきたエレベータから、普段着を来た男の人が二人降りて、空になった。
 清川と亜夢が乗り込み、清川が六階と八階のボタンを押した。
「?」
「ああ、もし六階が何かヤバそうだったら、間違えたふりしてそのまま八階に上がろうかと」
「警察の人のテクニックなんですか?」
「あっ、いや…… そういうわけでは」
 そう言って清川が少し笑った。
 エレベータは二人だけを載せ、途中停止せずに六階で止まった。
 清川が顔をだし、左右をうかがうと、亜夢に手招きした。
「あの…… あまりそうやってるとかえって目立ちませんか?」
「そ、そう?」
 清川は明らかに視線が泳いでいて、落ち着きがなくなっていた。
 亜夢は清川にたずねた。
「フロアに書いてあった会社名、何かご存知なんですか?」
「ううん。何も知らないんだけど…… そうじゃないのよ。捜査っぽいのに慣れてないっていうか……」
 亜夢がうつむいた。
「じゃあ、ここで待っててもらっていいですか?」
「えっ…… 加山さんが一人で行動するなって」
 亜夢がムッとした顔をつくる。
「じゃあ、落ち着いてください。警察官の服を着ているんですから、相手がビビるのはわかりますが、清川さんがビビっちゃだめじゃないですか」
「は、はい」
「普通にして、ついてきてください」
 亜夢は廊下を歩き始めた。
 扉に貼ってある社名を見て、通路を戻り、フロアの案内図をもう一度確認する。
「タキオ物産…… ここに行きましょう」
「なんでここなの?」
「カンです」
 二人はフロアを横切り、南の角にあるタキオ物産のオフィスへ向かった。
 廊下を歩いていると、突き当りのタキオ物産の扉が開いた。
 髪は短く、マスクをしていて表情はわからないが、目つきは鋭かった。
「!」
 亜夢はヘッドフォンをずらした。
 タキオ物産から出てきた者が一瞬、足を止めたように見える。
「……」
 互いの距離が縮まっていく。
 五メートル、三メートル……
 亜夢たちが右に、出てきた人は逆へ避けた。
 亜夢も清川もその者を振り返らず、一直線にタキオ物産の扉に向かう。
 扉につくと、亜夢が清川に耳打ちし、清川がインターフォンのボタンを押す。
「警察の者です」
「は、はい。なんでしょう?」
「先日の事件のことでお話が……」
 少しして、ガチャリ、と扉が開かれた。
「どうぞ」
 女性が出てきて、テーブルと椅子のあるところへ案内してくれた。
「どうしましましょう。誰に話があるのでしょうか?」
 清川が答える。
「全員に順番にお話をきくことはできますか?」
「えっ…… と全員ですか、となると、かなり時間が」
「お時間はとらせませんから」
 清川はオフィスの中に入っていきそうな勢いで言うと、女性も困った顔で急いで奥へ戻っていった。
 しばらくするとタキオ物産の人が、順番に出てきてくれて、名前と当日いたか、気がついたことはなかったか、を話していった。
 清川がメモを取り終えると、頭を下げた。

 亜夢が手を開いて抑えるようなしぐさをした。
「干渉波はそんなに高い波長じゃないから、あんな小さい範囲で、極端な強弱が出ないはずなんだよね」
「そうなんですか?」
「帰りにお寺の近くの坂を通る時に確かめてみればいいよ。あそこがわかりやすい」
「……」
 加山は振り返った。
 清川が声をかける。
「加山さん、先に行きますよ」
 背中を見せたまま、加山は言う。
「ああ……」
 亜夢は加山の背中越しに、カメラを仕掛けたビルを見た。
「……」
「どうしたの?」
「清川さん…… いえ、別に。あのビルに何か仕掛けがあるのかな…… って」
「ビルだからね。つったってビル。建物だから」
「なんのことですか?」
「ビルを調べるってことは、ビルに入っている人を調べるってこと? かな」
「……」
 亜夢はもう一度ビルを見つめた。
「あれ? 清川さん?」
「こっちよ!」
 亜夢は慌てて後を追った。
 しばらく歩いて、検問があったところ、すなわち最初の小競り合いがあった場所についた。
 亜夢は何も言われずにキャンセラーをはずし、状況を確認した。
「それほどクリアではないです。非常に強い…… ってわけでもないですけど」
 中谷が装置を見ながら動き回る。
 ビルの時にちょっとした位置で測定値が変わったからのようだ。
「ここは言う通りそんなに弱くない…… このくらいだと超能力使えるの?」
「学園の|娘(こ)達のテレパシーは聞こえませんが…… 」
 周りを見回す。車は走っているが、人通りはほぼない。
 亜夢は清川のおでこの近くに手を持っていくと、触れずにその前髪を吹き上げた。
「わっわっ…… すごい風っ……」
 中谷はノートパソコンに何か打ち込みながら言う。
「お寺からの坂道ぐらいかな?」
「ちょっと、前髪吹くのやめて……」
「あっ、清川さんごめんなさい」
「昨日の格闘戦ぐらいは出来そう?」
「……ええ」
 中谷が無言でうなずく。
「中谷、何かわかったのか?」
「どれくらいの干渉波で超能力が使えなくなるのかは大体わかってきました」
「ここは?」
「弱、といったところでしょうか。体周りには超能力が使える感じです」
 亜夢がうなずく。
「だからここで暴れられたのか」
「そうでしょうね。さっきの寺の近くの坂といい、ここといい、土地の傾斜で影になっているのかもしれませんね」
 加山が来た道の方をさし、全員で来た道を戻っていった。
 弾丸を弾いたり、電撃が飛び交った場所に戻ると、中谷はまた計測を始めた。
 しかし、始めた直後から何度も首を傾げた。
 加山が中谷の後ろに回って、パソコン画面をみて、肩を叩いた。
「どうした中谷。何があった?」
「ちょっとおかしい。さっきみたな干渉波の強弱がなくなっているんです」
「そんなすぐにわかることなのか、さっきの計測が間違えということもある」
「ん~ そういうことも、なくはないですが……」
 二人のやり取りを見ていた亜夢はビルを見上げた。
「……」
 そして清川の袖を引っ張って、加山と中谷から離れるようにビルの影に入った。
「このビルの中。さっき清川さんが言ったみたいに、ビルの中を調べませんか?」
「うん。ちょっと加山さんに言ってくる」
「!」
 戻ろうとする清川の腕を引っ張る。
「?」
「加山さんと中谷さんにはここの状態を調べてもらった方がいいんです」
「それにしたって、一言いうぐらいしないと」
「お願いです。急がないと」
 清川は亜夢の顔から何かを感じ取ったようだった。
 軽くうなずくと、亜夢と一緒にビルの中に入った。
 通用口から、ビルのロビーに入り、フロアの案内をみる。
 色々な名前が書きこまれていて、テナントビルであることがわかる。
「知ってる会社はないわね……」
 亜夢はヘッドホンを少しずらして、フロア案内のパネルに手で触れる。

 亜夢は頬を赤くして黙ってしまった。
「……」
「干渉波は強い? 弱い?」
「……弱いです。学園のテレパシーが今」
「中谷、測定して裏付けを」
 中谷は長い棒を動かしながら、パソコンのモニターを見る。
 しかし、亜夢の様子をみて、動きが止まる。
「どうした、中谷?」
「ら、乱橋さんが……」
「ん? 乱橋くんがどうした?」
「頬を染めて……」
 がッ、と音が出た。
 いや、出てないかもしれないが、それぐらいの勢いで、加山は中谷の頭を叩いた。
「いったぁ…… パソコン落とすところでしたよ。何するんです」
「お前こそ、どうでもいいことで作業を中断するな」
 亜夢は黙って上を見ている。
 確かに頬は赤いままだった。
 それを見て、清川がたずねた。
「乱橋さん、顔赤いわよ? 熱でも出た」
「奈々の裸…… じゃなかなった、何でもないです」
「えっ、ナナ? ナナって男の子?」
 亜夢は首を振った。
「男の子の裸、ってわけじゃないんだ。ふーん」
 清川は亜夢とは反対を向くと、にやり、と笑った。
 亜夢は何かを感じ取って、清川の肩をグイっと引っ張った。
「あっ、笑いましたね。私、何か変なこといいましたか?」
「『ナナの裸』って、その単語だけ聞いても十分変だよ。しかも、顔赤くなってるし」
「けど、だからって、笑う必要ないじゃないですか!」
 さっきまでとは、違う意味で紅潮している。
「笑ったわけじゃないのよ。うふふ、って感じなだけ」
「どこがちがうんですか!」
 言い終わった亜夢の頬は膨れている。
 清川はそれをみてさらに微笑む。
「また笑った!」
「違うって、違うのよ」
「何がちがうんですか」
 完全にふくれっ面になっている。
「いや、可愛らしいな、と思って微笑んでいるだけなのよ。本当に他意はないの」
「むぅ」
 また清川は亜夢の反対を向いて、声を押し殺して笑った。
 同じように亜夢は肩を掴んで振り向かせるが、その瞬間に真面目な顔をした。
「……」
 それを見ていた中谷が言った。
「ほら、何か乱橋さんが大変な感じに……」
「な・か・た・に。お前はお前の仕事に集中しろ」
 加山は中谷の頭を強く頭を押さえつける。
「えっ、でも、でも……」
「お前が『でもでも』って言っても気持ち悪いだけだ」
 真剣な顔に戻って、必死に測定をづつける中谷。
 パソコンの画面を見る度、首をかしげる。
 計測用のアンテナを前後にゆっくり動かす。
「……」
「どうした、何か変なのか?」
「ものすごく弱いところと…… 何故こんなに差が」
 加山がアンテナを奪うように取ると、中谷と同じようにそっと前後に動かす。
「確かに、ものすごい差だな。まだらになっているのか?」
「……影?」
「太陽がどうかしたのか? こっち側は北だから何時も影の中だ」
「……いえ」
 清川と乱橋のじゃれ合いも落ち着き、一同は最初に検問をしていた場所に向かって歩き始めた。
 乱橋が中谷にたずねる。
「やっぱり干渉波は弱かったですか」
「うん、弱かったんだけど…… 強い所もあった。均一じゃない感じ」
「あ…… そうですね。私もなんかそんな風に思いました」
 乱橋がにっこりと笑うと、中谷も笑い返した。
「そう…… 気が合うね。ボクタチ」
「コラ」
 加山がまた中谷の頭を押さえつける。
「調子に乗るな。捜査協力者なんだぞ」
「まあまあ……」

「ちょっとまって!」
 清川が中谷の手をつかんだ。
 映像の再生も止まった。
「これパトレコって一応、個人情報なんでしょ? 私がパスワード入れなきゃ見れないはず」
「この前、パスワード入れてもらったじゃん?」
「えっ…… そうだったっけ。なーんだ」
 映像を再生した。
 左手の道に降りてくる男、一瞬清川の顔を見て、まずい、というような反応を見せる。
 しかし、清川はまっすぐ前をみているようで、その男に気づかずまっすぐ走ってしまう。
「清川さん、この男に気づきませんでしたか?」
「うーーん……」
 三人の視線が、清川に集まる。
「わ、私あまり男の人に…… じゃなかった。よく見えてなかったです」
「しかたない例のビルに仕掛けたカメラの方へ行こう」
 中谷はパソコンを畳んでバッグにいれ、全員で坂を下り始めた。
 加山が先頭を歩き、亜夢が後ろに続いた。
 中谷は清川に服をひっぱられ、後ろを振り向いた。
「どうしたの?」
「中谷さん、確かにパスワード入れたけど、このパソコンがパスワード覚えてるってこと?」
「そ、そうだよ。OSの機能だよ。いいじゃん、便利だし」
「パトレコって、個人情報だから勝手に見ちゃダメ」
 胸のカメラを指さす。
「この捜査の間だけだから」
 清川は小さい声で言った。
「……パスワード変えとく」
「そんな……」
「だって…… これトイレとかも映っちゃうんだもん」
 より一層小さい声だった。
 中谷は首をかしげた。
「あれ、だって、これトイレボタンってついてるでしょ?」
 パトレコをつまむような仕草をした。
 清川のパトレコの両脇にスイッチのようなものがついていた。
「これ?」
「同時に長押しすると一定時間撮影が止まるんだよ。時間設定は出来ないから、一定時間後に再撮影が始まるけどね。だけど、その時には録画前に音がなったはずだよ。延長するときはその音がなった時に再度つまむように押してトイレモードにいれるんだよ」
「知らなかった……」
「やっぱりね。知らない人多くてさ。パトレコの映像で何人の○○○をみせられたことか……」
「えっ、私のみてないでしょうね!」
 声が大きくなった。
 亜夢と加山が立ち止まって振り返る。
 清川が手を大きく交差させるように振り、「なんでもないから気にしないで」と言った。
「大丈夫だよ。俺、|二十歳(はたち)より上の女性には興味ないから」
「あーむかつくー!」
 そうやってしばらく歩くと、カメラを仕掛けたビルについた。
 加山がビルの警備員と話をして、警備室のカメラのモニター付近に、椅子を並べて皆で座った。
 中谷が仕掛けたカメラの画像をパソコンで取り出し、その間にもともとビルについているカメラの映像を確かめた。
 リモコンを使ってじっくりと検証したが、それらしき人物は映っていなかった。
「やっぱり一日じゃ無理もないな」
「通行量は多いですね。こんなに人が通るとは思いませんでした」
「中谷、そっちはどうだ?」
 中谷はパソコンで画像解析をして、人物らしき映像だけを切り取って一気に確認していく。
「こっちも同じですね。あの時の人物っぽいのすらない」
「ま、映像は続けて撮っていこう」
 警備の人にお礼を言って、ビルをでる。
 加山が、例の現場を指さして、中谷に言う。
「ここの超能力干渉波を測ろう」
「乱橋さん、ちょっとキャンセラー外して」
 亜夢は先日の映像で、電撃を発した人物が立っていたあたりに進み、ヘッドホンの形をしたキャンセラーを、ゆっくりはずした。
「!」
 一瞬、亜夢の中に奈々の姿が現れた。
 テレパシーとは違う、映像イメージだった。
「こ、こんなこと……」
 奈々の姿が見えなくなったと思うと、いきなりアキナからのテレパシーが入ってくる。
『奈々、さっさと水着きてよ』
『真っ裸になってから着替える人見るの、小学生以来だよ』
「どうした? 乱橋くん」
「乱橋さん?」

 公園の中を流れる川があり、そこは少し谷のようになっていた。
 周辺のビルも、観光対象になるぐらい高いもの以外は見えない。
 亜夢には、まるでここが|学園(ヒカジョ)のある田舎のように思えた。
「ここかな? 乱橋さん、ちょっと感じを教えて」
 亜夢は超能力干渉波を打ち消すキャンセラー ーー見た目はただの白いヘッドホンだがーーを頭からはずし、首にかけた。
「あっ……」
 亜夢が笑った。
「どうしたの?」
「なんだ」
 あっという間に、ゲラゲラ笑いだしてしまった。
「……ごめんなさい。あの…… ふふふ…… ここだと、学園の|娘(こ)達のテレパシーが聞こえるんです」
「相当低いってことかな?」
「あっ、そ、そういうことです」
 中谷が棒をあっちこっちに向けながら、パソコンの画面を見つめる。
「確かに、ここだと一桁台です。故障かと思ってびっくりするぐらい」
 加山が歩いてきた方向をさした。
「戻ろう。乱橋くん、キャンセラーをつけて」 
 パトカーにのると、また昨日のお寺に止めた。
 清川さんが住職に話をしに行き、亜夢と中谷と加山は坂を下りてカメラのあるビルへ向かった。
 途中、襲われたあたりに差し掛かると、中谷が言った。
「昨日襲われたところって、この辺でしたっけ?」
 加山が顎を手で触りながら周囲を見回す。
「ああ、そうだな」
「測ってみたいです。乱橋さん」
 中谷はまた頭からヘッドホンを外せ、という仕草をしてみせる。
 亜夢もそっとキャンセラーを外す。
「……」
 亜夢は道の先をじっと見つめて、黙っている。
「どう?」
「……立ち去れって」
「えっ? 今、なんて?」
「ここから立ち去れって。病院送りじゃすまないぞ、って言ってます」
「言ってます?」
 亜夢は道の先を指さした。道は坂になっていて、その先に誰がいるのかは見えない。
「テレパシーってこと?」
 亜夢はうなずいた。
「それって、ここが超能力スポット…… つまり超能力干渉波が出てないってこと?」
 亜夢はどこをみるでもなく周りをぐるりと見回した。
 どこから話しかけているのか…… 亜夢は一歩踏み出した。
「あれ?」
 激しいノイズ。飛び続ける黒いカラスが前を覆ったような感覚が亜夢の中に起こる。
「消えました」
 すばやくキャンセラーをつける。
 中谷が慎重に棒を動かしながら測定を続ける。
 亜夢がいたところ、前、後ろ、左、右…… そのあたりすべて。
 厳しい顔つきのままだ。
「なんだろう、急にノイズが強くなってる」
「このあたりにそういうエリアを作ったり、消したり出来るということか?」
 そう言って加山が周りを見回す。 
 亜夢も、キャンセラーを少し頭からずらし、同じように辺りを見回すが、木々が生えているのと、古めかしい瓦屋根の住宅が並ぶばかりで、何か特殊な装置や、力のようなものは感じられなかった。
「立ち去れ、って言ってるってことは、この地域にくるなってことだよね。それは怪しい、ってことを印象付けたいのかな。わざとここを調べさせようということなのかな?」
「中谷が言うようにここをしつこく調べさせて、時間を稼ごうとしているのか、それとも本当に警告のつもりなのかわからんが、この近くに何かあるんだ。事件もこの近辺で起こっているんだからな」
「先に行きましょう。カメラを仕掛けたビルに」
 亜夢が言うと、後ろから声がした。
 三人が振り返る。
「お待たせしました〜」
 清川が追いついてきたのだった。
「誰かいなかったか、あるいはすれ違わなかったか?」
「パトレコを見ればわかります」
 中谷がパソコンを開いて、パタパタキーを打つ。
 映像が再生される。
「えっ、ちょってなんで中谷さんが?」
「映ってませんか? あ、この左側に避けていく人」
「ちょっと、中谷さん? なんで私のパトレコの映像再生出来るの?」
「アスファルトの上だと、迷彩柄の服を着ていると、かえって目立つが……」
「そこの木の影に潜んでいたのだとしたら?」

 アキナは物知り博士のようなスタンプを送ってきた。
『なるほどね』
『わるいけど、授業が始まるからさ。何かあったら入れといて。後で返事する』
 手を合わせたキャラのスタンプが続く。
 亜夢はスマフォをスリープさせる。
「(だから、このキャンセラーで何も見えなくなったってわけだ)」
 グラスをもって、ストローを口に含む。
 そして周りを見回して、疎外感を感じる。
 超能力避けがある、ということは、それに動じない、踏み込む強い勇気をもったごくごく限られた超能力者…… か、まったく超能力とは無縁の人しか店内にはいない、ということになる。
 この店のオーナーは、超能力者はカフェでも暴れる、とか考えているのだろうか。
 考えているうち、亜夢は腹が立ってきた。
「ズズズズズ……」
 ワザと音を立てて飲み干すと、返却口にコツン、と音を立てて返し、亜夢は足早に店を出ていった。
 キャンセラーをしながら、街をあるいて警察署に戻ると一階で清川さんに会った。
「ああ、なんか連絡行ったの? こんなに早く戻ってくるとは思わなかった」
「連絡はありませんでしたけど」
「あれ? おかしいな。加山さんが鳴らすって言ってたんだけど。まあいいや。中谷さんの仕事が早くて、もう出発できるって」
「そうですか」
 清川が亜夢の顔を下からのぞき込むように見た。
「?」
「落ち込んでる?」
「ちょっと」
「何があったの?」
「それは…… あっちの通りにあるチェーンのカフェで」
 亜夢は『超能力避け』が仕掛けられていることを話した。
「へぇ。警察がこんなこというのもあれだけど、人権ってなんなんだろうって思うわ」
「たぶん、店員もお客さんもだれもそこに『超能力避け』が仕掛けられている、なんて知らないんでしょうね」
 清川は亜夢の話を聞きながら、加山と話ししていた。
「はい、乱橋さん戻ったんで。はい。はい」
 電話を置くと、
「ちょっとあのカフェの印象悪くなったわ」
「世界展開しているから、そういうの気を使っているんでしょうか」
「気をつかうなら逆よ。フェアトレード、とか言っておきながら、店では人権侵害しているってわかったら、イメージダウンになるんじゃないかしら」
「……」
「もしかして、同じこと考えたかな? このことは……」
『他の人には言わない方がいい』
 亜夢と清川は声をそろえて言った。
「世界的なカフェの評判も、このアジアの一店舗でしていることでがたがたになることもあるわ」
 しばらくすると、中谷と加山が一緒に降りてきた。
 長い棒のようなものと、中谷のヘッドホンのようなものがつながっている。
 加山が清川にパトレコ(警察官の行動記録用カメラ)を付けろ、と指示した。
「なんだ、ゆっくりしてて良かったのに」
「ちょっとテンションが下がることがあって」
「まあ、乱橋くんの好きにするといい。その分仕事してもらう時間は長くなるけどな」
「はい」
 中谷は何か楽しそうに持っている棒を、あっちにむけたり、こっちに向けたりしている。
「それが…… 測定器なんですか?」
 亜夢は『干渉波』を言いかけて、言い直した。
「そうだよ。乱橋さんが感じているのと同じ、なら正解なんだけど……」
「?」
「この警察署のレベルは55~65ってところ。それ外して、ここの感覚覚えといて?」
 亜夢は中谷の言ったように、キャンセラーを外して首にかけ、どんなことが頭に飛び込んでくるのかを、感覚的に覚えることにした。
「どう?」
「難しいけど、覚えてみます」
 清川がパトレコを付け、車のカギをもってやってきた。
「準備できました」
「出発しよう」
 全員でパトロールカーに乗り込むと、大きな公園が見えてきた。
「今日はどこにいくんですか?」
 中谷がパソコン画面を見ながら言った。
「まずは一番干渉波が低いと思われる場所に行ってみよう、ということにしたのさ」
 亜夢が緑が広がる柵の向こうを指さした。
「そうだ」
 車を降りると、全員でその公園に入っていく。
 中谷がスマフォで地図を確認している。
「もう少し進んだ先みたいです」

 だが、実際に加山の口からきいて、実感が湧いてきた。
「おそろしい魔術をつかうような、爆弾を仕掛けて超能力で起動するようなテロとか。そんなイメージしかないのさ」
 清川が言った。
「きっと、みんな身近にいないからね」
「だから、そういう発言や、それっぽい行動をしてはダメだ」
 中谷が手を止めて亜夢に『あたまにかぶるよう』なしぐさをした。
「していった方がいい」
「……」
 亜夢は加山出したお金を受け取り、警察署を出ていった。
 カフェ…… 昨日行った裏の通りに何件かあった気がする、と亜夢は大通りのチェーンのカフェをパスして、歩いて行った。
 すぐそこのチェーン店だと、行き帰りの時間も短くて、間が持たない。
 裏通りまで行けば、それだけで時間がかかるし、飲んだこともないカフェとか紅茶が出てきそうだった。
 大通りを曲がり、信号を待っていると、黒塗りの大きな車後ろからやってきて、亜夢の横に止まった。
「!」
 確かに学園の近所では見かけないような大型車だったが、こういう車をないわけではなかった。
 後ろのドアの色付きのガラス窓が静かに降りた。
 そこには、昨日、ショーウィンドウ越しにみた、高級ブランドショップの客がいた。
 窓が半分ほど降りると、亜夢の方をちらっと見てきた。
「えっ?」
 微笑むわけでもなく、話しかけてくるわけでもなかった。
 ちらっと一瞥すると、また正面を向き、ガラスが上がり、車も静かに出発した。
 亜夢も同じ方向へ渡り、その車が去っていくのをその場でじっと見つめた。
「なんなんだろう」
 首をかしげて、裏通りへ入っていく。
 ほどなくカフェを見つけるが、シャッターが閉まっている。
 それどころか、ゴミの回収車や、たくさんの段ボールを下している配達業者がいるばかりで、店という店が閉まっていた。
「ここは、朝くるところじゃないみたいね……」
 『Sugar boy』あたりまで歩いたところで、裏通りのカフェを試すことはあきらめた。
 そして、大通りに戻ると、大手チェーンのカフェに入った。
 亜夢は床に何かを見つけて立ち止まった。
「!」
 亜夢の後ろから、ほぼ入ってきた別の客が亜夢を避けるようにして先にカウンターに行き、注文を始めた。
「えっ」
 亜夢は抜かしていった客に聞こえるか聞こえないかの小さな声をあげた。
『あなた、超能力者ね?』
 どこからか、テレパシーで話しかけられた。
 安易に答えては駄目だ。
 亜夢はまた床をみて首をかしげる。
『そこでおどろいちゃだめだよ』
 亜夢の知覚を盗み見るほどの力があるか、この店の中にいて、こちらを見ているはずだった。
 どんな人物か確かめたくて、きょろきょろと周りを見回すが、テレパシーを送るのがどこにいるのかまったくわからない。
『ふん、せっかく超能力者に会って喜んでいたのに。無視するなら勝手にしな』
 ぼんやりとだが、近くにいた感覚がなくなった。
 どうやらどこかに行ってしまったらしい。
 入り口のオートドアの外を通りすぎる人々を見て、店内じゃなかったんだ、と亜夢は後悔した。
「(おどろいちゃだめ…… か……)」
 ふいに、警察署で、中谷がわざわざ手を止めて、亜夢にしてくれた合図を思い出した。
「たしか、こう…… あっ!」
 亜夢は、首にかけていたキャンセラーを頭にのせた。
 亜夢の口元に笑みが浮かんだ。
 そのまま注文カウンターに進み、すこしだけキャンセラーをずらして店員と会話した。
 加山から受け取ったお金を出すと、レシートとお釣りをまとめてポケットに戻した。
 商品をもって奥の席に座ると、キャンセラーを正位置に戻した。
 アイスのカフェラテを飲みながら、持っていたスマフォで検索する。
『超能力者避け』
 まったく検索結果が出ない。
『超能力者避け 幻覚』
 ヒットしない。
 なんだろう、と思いながら、アキナにメッセージを送った。
『なんか、店に入ったら底なしの穴がが開いていて、天井からは巨大な蜘蛛の足が飛び出してた。これってなに?』
 既読、とついてから、しばらくたつとメッセージが返ってくる。
『超能力避けだって。パチンコ屋とかギャンブル場に多いけど、って、みんな言ってる』
 亜夢も素早くフリックして返す。
『マジ! これ、幻覚なの?』
『リアルなのは、受け手が最も怖いものを、受け手の力で作り出すからなんだって。二人が同じところに立っても、同じものは見えないんだってさ』

「そうだったねー、寂しいなぁ」
「清川さんだって、署で寝泊まりしてたわけじゃないじゃないですか?」
「朝来ると亜夢ちゃんがいる、そういう楽しみはなくなっちゃうわけだから」
 二人はエレベータに乗り、小さい会議室のあるフロアで降りる。
「今日は、この会議室に来てくれって連絡入ってたわ」
 清川がノックをして開けると、そこには中谷がいた。
「どうぞ」
 棒状のものに電線を巻き付けたような器具を机に立て、接続されたノートパソコンで何かの値を見ていた。
「もしかして、干渉波の測定装置?」
 中谷は数値を見ては、別のウィンドウで英文字を打ったり、修正したりしている。
「中谷さん、乱橋さんがね」
「……」
 何も聞こえていないようだった。
 亜夢が清川に向かって言った。
「すごい集中力ですね」
「照れるなぁ」
「聞こえてんじゃない」
 清川が突っ込んだ。
 中谷は棒を片手で持ち上げて、腕を伸ばし、まるで刀の波紋を見るかのようにそれを見つめた。
「……どうしたんですか?」
「野球選手のマネしてんじゃない」
「なんだよ、ネタバレすんなよ」
「ちゃんとやってよ」
 清川は自身のおでこに手をあてて、下を向いた。
 亜夢は中谷が次に何をしてくるか見つめていた。
「えっと……」
「ほら、余計なことしすぎるから本題に入りづらくなった」
「これはね、亜夢ちゃん……」
「乱橋さんだろ。中谷」
「加山さん」
 扉には加山が立っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
「これが干渉波測定器…… なのか? 中谷。完成したのか?」
 中谷がパソコンの画面をみてつぶやくように言った。
「もう少しで完成します」
「で、いつ出発できる?」
「……」
 中谷はパソコンから目をそらさない。
 必死に考えているようだった。
「午後までかかるか?」
 中谷は首を振った。
「明日?」
「逆です。もっと早くできます」
 カチャカチャとキーを叩く音が響く。
「一時間? 二時間?」
 キーを叩いていた指が止まる。
「……一時間で」
「よし。乱橋くん、食事がまだなら済ませてくれ。あるいは喫茶店でも言ってお茶してくるか」
 加山が財布からお金を出した。
「亜夢ちゃん、いいお店しってる」
「清川は残れ」
 加山はそう言って、お札に手を伸ばしていた清川の手を叩いた。
「お、昨日の服を着てきたな。どうも制服は|超能力学園(ひかじょ)のものだと、知られているようだ」
「みきちゃんも制服のこと知っていました」
「乱橋くんがどこまで知っているかわからんがな……」
 加山が視線を落とした。
 亜夢は身構えた。
「超能力者はイコールテロリスト、みたいな風潮なのさ」
 非科学的潜在力女子学園でも『世間にはそういう風に信じる人がいる』と教えられていた。

『へぇ…… そんな装置があるんだ。売ってたら買ってきてよ。それを付けて、私も都会を歩きたい』
「非売品だよ、きっと。だって、警察の人が内緒で作ったっぽいし」
『そっか。残念だよ』
「おみやげは買って帰るからさ。欲しいものがあったらスマフォに入れてよ」
『わかった~ 考えとく~』
「じゃね。おやすみ」
『おやすみ、亜夢』
 亜夢は通話を切った。
 ずらしていた〈キャンセラー〉をきっちり耳にかけると、実際の耳に聞こえてくる音も、テレパシーに働きかけてくるノイズのようなものも、一切がなくなった。
 その無音の中で、亜夢は奈々の顔を思い浮かべていた。
 アキナと奈々の話からすると、高さにして二、三フロア分、人の体を引っ張り上げたことになる。
 果たしてクラスのみんなの|超能力(ちから)を使ったからと言って、そんな重量物を吹き飛ばせるだろうか。
 自分自身で考えても、壁を蹴りながらビルを上るのを、超能力で作る風でアシストするぐらいしかできそうにない。そんなやりかたでも体育倉庫の屋根に上れるのが精いっぱい。
 けれど、今回のは、手放しで、完全に浮いたような感じに飛ばしている。
 空間をゆがめる能力、なんていうものがあれば、可能なのかもしれない。
 けれどそんな力って、どれくらいのエネルギーを使うんだろう。
「まさか? 奈々!?」
 亜夢はそう言って体を起こした。
 いくら何の力をもっているかわからない、と言っても、奈々にその力を期待するのは突飛すぎる。
 再び横になって考えているうち、亜夢は寝てしまった。 
 
 
 
 亜夢は目が覚めると、素早く布団を片付け、いち早く干していた下着のところへ向かった。
 昨日のように下着がすり替えられていたら……
 亜夢にとってはこっちの犯人を捜査したいところだったが、唯一協力してくれそうな清川さんは気にもとめないようだった。

『大丈夫、洗濯したからここに掛けてるんだから』
 亜夢はじっとその下着を見つめる。
『大きさは大丈夫そうですけど……』
 清川がパッとその下着を取って、亜夢に押し付けるように渡した。
『大丈夫、大丈夫』
 困惑する亜夢肩を叩き、振り向かせ、両肩に手をかけエレベータの方へ押しはじめた。

 ただ、昨日はそもそも洗濯ものはほとんどなかった。誰も間違えることはないだろう。
 亜夢は部屋に入り、洗濯ロープの先を目で追った。
 真っ黒いTバックの下着。
「えっ?」
 |絶対に私のものではない(・・・・・・・・・・・)
 亜夢は下着を選択ロープから外しながら言う。
「誰かが故意に交換しているよね」
 誰かの視線を感じて、下着をロープに戻す。
「誰ですか?」
「おはよう、乱橋さん」
「清川さん! 助けてください。また下着が!」
 近づいてくると黒い下着を手に取った清川さんが言う。
「これ、乱橋さんが初日に買った奴じゃん」
「えっ? 違いますけど」
 亜夢が否定しているにも関わらず、清川はその下着を取って押し付けてくる。
「なんとなく使い込まれている感もありますし」
「昨日使って、洗ったんだから、それなりに使った感は出ちゃうでしょ?」
「いや、だから」
 清川は口に人差し指を当てて『しーっ』と言った。
「亜夢ちゃんがこういうセクシィな下着はいてたの、黙っておいてあげるから」
「なんか怪しい」
「?」
 清川はさっさと部屋を出てしまって、気づいていないようだった。
「亜夢ちゃんなんか言った?」
 亜夢も諦めたように首をふった。
「今日、おこずかいで新しい下着を買おう」
「ん?」
「今日からホテルなんですよね」


 
 
「奈々はアキナとキスしたかったの?」
 途中まで横になって聞いていた亜夢は、起き上がってそう言った。
『そこは重要なところじゃないでしょ? 小林が襲ってきたのよ』
「確かに小林が留置所にいるんじゃなくて、学校に来た、ってのはびっくりしたよ。それと、アキナが宙を飛んでその小林を蹴り飛ばしたのもすごかったけれどね。だけど、最後の最後、キスの話がもってっちゃったよ」
『私がアキナとキスしたら嫌だった?』
 亜夢のこめかみがぴくっと動いた。
「う〜〜ん。嫌、嫌だった、嫌だったような気がする」
『嫉妬? それって嫉妬?』
「えっ…… なんか不潔っていうか」
『なにそれぇ。不潔じゃないでしょ?』
「嫉妬でもないような気がするよ。だって……」
『えっ? だってってどういうこと?』
 亜夢は指をおでこにあてて、何か思い出そうとしていた。
「うん、いや、違う。奈々のことは好きだよ。好きだけど…… 好きよ。嫉妬…… やっぱり嫉妬なのかなぁ?」
 亜夢は首をかしげていた。
『嫉妬なのね。よかった。亜夢の為にファーストキスは残しておくね』
「えっ…… あ、うん。ありがと」
 亜夢はさらに困惑したような表情になった。
「じゃ、じゃあね。明日、捜査協力で早いから、寝るね」
『うん。また明日も電話してね』
「あ、うん。じゃあね、奈々」
『おやすみなさい、亜夢』
 亜夢は電話を切ると、スマフォの電話帳から今度はアキナを呼び出した。
「もしもし、アキナ?」
 相手が出ると同時に、亜夢はベッドに仰向けになる。
『亜夢、今日、ちょっとびっくりすることが』
「奈々とキスしたこと?」
『えっ……』
 しばらくの沈黙。
『あの、さ……』
「だから…… 奈々と…… キスした?」
『してないよ。触れそうになっただけ。絶対キスなんかしてないから』
 アキナの慌てた声。
 亜夢はさらに追及する。
「けど抱きしめた」
『うん』
「どうして抱きしめたの?」
『だって…… あの場にいれば抱きしめたよ。だって奈々泣き出しちゃったんだもん。友達としてだよ』
「キスしようとしたのに?」
 亜夢の口元はいたずらな笑みがみえる。
『あ、あのさ。正直いうとさ。私、初めてさ。女の子を…… というか女の子で、というか……』
「えっ?」
『感じたっていうか。あのさ、奈々ってなんかそういう|超能力(ちから)あんじゃない? だから測定できないんだよ。きっとそう』
「……それ、マジ?」
『いや、わからないけどさ、そんな|百合力(ちから)があるなんてさ』
「いや、そうじゃなくて、アキナは感じちゃったの?」
 再びの沈黙。
 さっきより少し長い。
『……そうだよ。感じたよ。感じた。濡れた』
「マジ?」
『いやいや、うそうそ。洒落だよ、冗談。こんなのマジなわけないじゃん。信じないでよ……』
 慌てぶりが尋常ではない、と亜夢は思った。
「なるほどね。わかったわ」
『それよりさ、そこにいるとちっともテレパシー届かないね』
「いや、たまに聞こえるような気がするんだけどね。とにかく変なのが多くてさ」
 亜夢は耳の後ろにずらしているキャンセラーを指で弾いた。
「へんなのを消す装置は借りてるんだけど。これやると逆に何も感じれない」




 VRゴーグルを外すと、奈々の頬を涙がすっと流れた。
 研究者達はいら立ったように測定器を何度も操作していた。
『ちきしょう、なんで何も反応がないんだ』
『とんだ誤報だ。最初の期待が大きすぎるんだ』
『どうやって測定器をごまかしたんだ……』
 怖い。奈々はそう思って立ち上がった。
『研究者が失望したのは、君のせいじゃない。君は何も悪くない』
 学園長はそう言って微笑んだ。
 そして立ち上がると、研究者達に向かって言った。
『この子は、うちの学園であずかります』
 
 
 再びアキナの体が屋上めがけて上昇し始めた。
 風、ものすごい上昇気流、いや、空間のゆがみなのか……
 まるで、地面に落ちるかのように空へ加速しながら上昇していく。
『すごい!』
 アキナは、屋上にいる二人の上空へ達した。
 奈々は、太陽の方に影が見えた。
 影は両手を真横に開き、足をそろえて伸ばしている。
 体がひねられると、回転のスピードが上がっていく。
 奈々はその軌跡が描く先に気付いた。
「!」
 奈々の予想通り、小林の頭の上にアキナのかかとが振り下ろされた。
 落下してくるスピードに、スピンの力が加わっている。
 瞬間、小林の動きが止まった。
「えっ?」
 奈々が驚いた声を出すと、小林がすがるように倒れてきた。
 それをかわすと、小林はどうすることも出来ず、そのまま床に倒れてしまう。
 奈々はアキナにたずねる。
「なんで? どうやってあんなに飛んだの?」
 アキナは首を振る。
 倒れた小林の背中にのしかかり、アキナはその両腕を引っ張って縛り上げた。
「分からない。自分でもびっくりした」
 小林は何が起こったのかわからないようで、足をバタバタしているだけだった。
「足も縛るから手伝って」
 男の足の力は奈々とアキナには少々厳しかったが、全身を使って抑え込むと、何とか縛り終えた。
「こら、ほどけ、お前らも同罪だぞ」
 アキナは小林に言った。
「勝手に騒いでろ」
 アキナが奈々の後ろに回り肩を叩く。
「奈々、大丈夫だった? 大変だったね」
 奈々がアキナの方を振り向く。
「……」
 目に涙がたまっているのが分かる。
「う…… うぇっ…… ふぇっ……」
 目を閉じた奈々がアキナに抱きつく。
 唇が触れ合うか、と思うところを、ギリギリかわしていく。
「えっ……」
 アキナは奈々が抱きついてきた意味が分からなかった。
 今まで奈々に対して抱いたことのない感情が湧き上がってきていた。
 そのせいで、奈々の体に触れることができない。
「ど、どうしたの、奈々」
「怖かったよぉ……」
「あっ。うん。そうだね、怖かったね」
 アキナはようやく奈々の体に手を回し、抱きしめた。
 抱きしめているうち、アキナの頭は混乱していた。
「奈々…… ほら、泣かないで」
 アキナは奈々の頬に触れ、そっと指で涙をぬぐった。
「奈々」
 アキナはそのまままぶたを閉じて、唇を寄せていく。
 奈々も待っていたかのように、目を閉じてそれを受け入れる。
「何やってやがんだ、女同士で!」
 唇が触れたか触れていないか、というところで、小林が騒いだ。
 アキナはまるで今気づいたかのように、奈々の顔をみてびっくりする。
「な、なに?」
 アキナがしばらく奈々の顔を見ていると、再び目を閉じて唇を寄せていく。
「ふざけんなよ!」
 小林が騒ぐと、アキナは目を開け、今気づいたかのように驚く。
「な、なんで、また?」
 奈々は小林の声など全く聞こえないかように、ひたすら口づけを待っている。
 すると、サイレンの音がした。
 アキナは奈々の体を引きはがすようにして離れ、屋上の端に向かった。
「奈々、警察が来た」
 奈々もようやく閉じていた目を開け言った。
「よかった」 

 奈々が小声で言った。
 小林は慌てたように用具入れの扉を開けた。
「いない!」
「だからいないの。亜夢は今日は学園にいないの」
「うるさい! こっちにこい」
 小林は奈々の後ろで縛った手を強引に引っ張って、教室の外へ向かった。
 奈々は引っ張られ、後ろ向きに歩きながら、よろよろとついていった。
 残された生徒は、呆然とそれを見ているだけだった。
 声には出さず、テレパシーの交換が始まる。
『どうしよう!』
『誰か、小林の居場所わかる?』
『私は小林の視覚を感じれるわ。屋上。あいつと奈々は屋上にいる』
 テレパシーで複数の女生徒と交信しながら、アキナは助ける方法を考えた。
「警察は……」
 学校の外をみても、パトカーの姿はない。
『じゃ、あのサイレンは何だったの?』
『下のクラスの子がスマフォで鳴らしたみたい』
『あいつは、屋上は安全だと思っている』
『作戦がある』
 いくつものテレパシーが交わされるなか、その作戦が具体的に決定した。
 アキナが実行役になり、他のみんなはサポートに回ることになった。
 アキナは胸のあたりまである髪を後ろでまとめ、外側の窓に足をかけた。
「みんな、お願いね」
 そのままアキナは立ち上がり、窓の上の枠を掴んだ。
「アキナさん、危ない、いったい何を……」
 近くの生徒が、叫ぶ先生の口を慌てて抑えた。
 アキナはうなずき、足を曲げ伸ばしした。
 これからスカイダイビングでもするかのようだ。
 フロアは三階で、下はアスファルトの通路。飛び降りたらただでは済みそうにない。
「いくよ」
 小さい声でつぶやくと、アキナは勢いよく飛び出した。
 外、というより、上へ。
『お願い!』
『風! 風吹いて』
 アキナの足の力で飛び出した勢いが止まり、上昇も止まった時。
『お願い!』
 アキナは背中の方向へ空気を呼び寄せるように、強くイメージした。
 
「おい」
 手を縛られた奈々は振り返った。
「お前はどんな超能力が使えるんだ? 亜夢とかいう女なら、とっくにロープをほどいているはずだ」
 奈々は小林の目をみた。
「知らない」
「ふざけてんのか? この学校は超能力がある奴が入れられてんだぜ。何もないやつがいるわけねぇ」
「だから、知らないんだって」
「馬鹿にするなよ。ここは超能力者のみの学校だってのは知ってんだ」
 小林は奈々の襟を持って、首を絞めた。
「乱橋がいないってのもの嘘だろ。わかった。そういう嘘をつく超能力かなにかか。役に立たない奴だ」
「……」
 奈々は小林をにらんだ。
「くやしいなら、能力を言ってみろ」
「知らない」
 奈々は思い出していた。
 VRゴーグルを取ると、そこは何かの実験室のようだった。
 白衣を着た研究者風の男数名と、不眠の相談に通っていたお医者さん、そして、ここの学園長が座っていた。
『八重洲奈々くん、だね?』
 生年月日を問われ、答えると、白衣の男の人が銃のような器具をこちらに向けた。
『何をするんです!』
『怖がらなくていい。君の超能力を測定する装置だ』
 パソコンと接続すると、白衣の男が画面に顔を寄せ、声を上げた。
『おお…… まさか』
 研究者の一人が笑顔で近づいてくる。
『すごいね。君。私も何人も見ているけど、君みたいの初めてだ。次のテストをするよ。さっきはずしたばっかりだけど、もう一度VRゴーグルをつけてもらうよ』
 
「おい!」
 小林はいら立っていた。
「さっきパトカーの音がしたはずだよな?」
 確かにした。奈々もうなずいた。
 小林は屋上から門の方をみるが、パトカーが止まっている様子はない。
「どこに行った? 本当に警察くるのか?」
 小林は奈々の胸倉をつかんで大声で言った。
「だましたのか?」
 奈々は、強い衝動を感じた。

「奈々!」
 奈々が扉に立っている。
「……先生、開けます」
「や、やめなさい」
 鈴木先生の制止を振り切って、奈々は扉の鍵を回した。
「よお。覚えてるぜ」
 人質に取っていたヨウコを放し、いきなり奈々の襟元を掴んで引き寄せた。
「お前の方がいい。あの亜夢とかいう女も出てきやすいってもんだ」
 ヨウコは突き飛ばされると、そのまま振り返らずに走って逃げた。
「……亜夢はいないわ」
「嘘つけ、お前と同じ学校だろうが。ここにいるんだろ?」
「昨日、今日は、亜夢、学校にきてない」
「昨日は学校に行ったろうが、俺の記憶力なめてんのか?」
 奈々ののど元にナイフを突き立て、教室へ押し込んだ。
 教室に入ると、小林は後ろ手に扉を閉める。
「こら、席につけ」
「やめなさい。罪が重くなるわよ」
「お前は先公だな? 先公は、この奈々とかいうやつの席につけ」
「いずれ警察がきて、あなたは捕まるのよ。逃げ切ることは出来ないわ。今その子を離せば罪は軽く……」
「いいから席につけ! 血を見たいのか?」
 奈々の肌に触れるか触れないか、というところにナイフを持っていく。
 小林は奈々の手をもって背後に回り、手首を後ろで縛った。
「最後に警察につかまるとか、そんなことはどうでもいい。亜夢ってやつに復讐しにきたんだからな。それさえすればさっさと出てってやるよ。ほら、亜夢ってやつを匿ってないで、早く教えろ」
 教室は静まり返った。
「ほら、あの席が空いているでしょう? 亜夢は今日いないのよ」
「ふん。どうせ、どっかに身を潜めてるんだろう? そこの掃除用具入れとか。そこのテーブルのしたとか」
 奈々を突き飛ばして、テーブルにぶつけた。
 テーブルは教壇と同じように、三面に目隠し用の板がついていた。
 手が動かない奈々はぶつけられると、そのまま折れ曲がるようにテーブルの上に上体をぶつけた。
 小林がやってきて、ガン、と大きな音が出るほど強く、テーブルの目隠し板を蹴った。
「だから、居ないって」
「うるせぇ!」
 奈々の短い髪を引っ張り、立ち上がらせると、膝で腹を蹴った。
 はねるように体をくの字に曲げ、そして床に倒れた。
「何するの!」
 鈴木先生が立ち上がる。
「知ってるぞ。お前ら超能力者だからな。どんだけやったって堪えやしないんだろう?」
「奈々は……」
 言いかけて、アキナは真実を言うべきか悩んだ。
 ほとんど能力がない、ことがばれたら余計酷いことをされるだろうか?
 それとも能力がある、と思われている方が、今みたいに乱暴されてしまうのだろうか。
「ほらぁ、立てよ」
 奈々は髪の毛を引っ張られ、また、無理やり立たされた。
「こんどはあっち」
 小林は用具入れを指さした。
 背中を蹴られながら、奈々は教室の後ろに進んでいく。
 アキナは頭の中で、男の蹴りと奈々の背中の間にものを挟むように力を働かせた。
「ほら、そこだろ?」
 アキナはもう一度強く働きかけた。
 しかし、奈々は強く蹴飛ばされ、勢いよく用具入れにぶつかった。
 ぶつかって跳ね返るように、奈々は床に倒れた。
「んっ……」
「ほら、わかったか? そこから出てこい。そうしたらこの女はここまでにしといてやる」
「だ、だから、亜夢はいないわ……」
 奈々は床に転がりならが、そう言った。
「奈々……」
 アキナは奈々を助けようと席を立ちかけた。
「ほら、席を立つな。座ってろよ? こいつがどうなってもいいのか?」
『アキナ、座って』
『けど、助けたい!』
『亜夢ぐらい力があれば、これくらい距離があっても出来るかもしれないけど、私たちには無理だよ』
『みんなの助けがあれば』
『失敗したら、奈々はナイフで傷つくのよ』
『……』
 また、奈々は髪を強く引っ張られ、立たされ、ナイフを突きつけられた。
「座れって言ってんだろうが!」
 大きな声に屈するように、アキナはゆっくりと席に座った。
 その時、校舎の外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「警察」

「え? もう刑務所出てきたの?」
「そんなに早く刑務所行きになるわけないじゃん。留置所から一旦出されたんじゃない? そんで昨日の仕返しに来たんだよ」
「軽トラで正門壊してまで? 今度こそ刑務所行きね」
「そんなことより、ここに亜夢がいないことが分かったら、あのコ危ないかも。奈々、なんとかして」
 奈々は外を指さした。
「けど、人質がいたら……」
 アキナには別の生徒からのテレパシーが入る。
「ほら、今、警察呼んだって。絶対やばいから、見てるしかないって」
「……」
「昨日の痴漢だったら、奈々も関係者でしょ。隠れてないと危ないよ。亜夢の代わりに奈々が仕返しされちゃう」
 奈々はまた窓際に行った。
 ボールが転がっているだけで、人質になった生徒も、刃物男であり、昨日の痴漢男の小林の姿もない。
「あれ、どこ行っちゃったの?」
「校舎へどんどん進んできてたまでみた」
『やばい、亜夢のクラスに向かってる』
『捕まってるコが、教室を教えてる』
「先生、どうしたらいいんですか?」
「先生」
 教師は携帯電話で他の教員と連絡をとっている。
「とにかく、待機だ。教室の扉の鍵をかけて」
 そう言って、また携帯電話を耳にあて、続きの指示を待った。
 生徒は慌てて扉に鍵をかける。
「警察はまだなの?」
「わかんない、どうしたらいいの? 逃げたら危ないの? じっとしてても危ないんじゃない? 亜夢を探してる訳でしょ?」
「先生は不審者がこの教室に向かっていること知らないんだよ。先生に言おう」
 アキナと奈々は慌てて教師のところに行くが、扉が叩かれた。
「開けろ! ここに乱橋亜夢とかいう女がいるだろう」
 教室は一気に静まり返った。
 テレパシーで激しく情報がやり取りされる。
『この男、思考がおかしい』
『ちょっとでも動けば刃物が喉に』
『そこ開けないと、まずいよ』
『けど、開けたら全員が人質になっちゃうよ』
 教師が扉の近くに近づいていく。
「鈴木先生、開けないで」
「ヨウコの喉に刃物つきつけられているんだよ、先生、警察がくるまでは犯人の言う通りにして。刺激しないで」
 鈴木先生は携帯電話をしまった。
「切れた……」
「先生、携帯電話で指示を仰いでいる場合じゃないです。言うとおりにしないと、ヨウコが」
「こらっ! 乱橋という女を出すか、扉を開けろ」
 鈴木先生は更に扉の方へ進む。
「いません」
「いないだと? じゃあ、この生徒がどうなってもいいのか、扉を開けろ」
 教室の横から扉の外にいる男を見た生徒が言う。
「先生、本当に喉元に刃物を突きつけています」
「扉を開ければ、亜夢がいないことがわかります。開けないと、あの子が危ないです」
「先生!」
「先生、開けて」
「開けて」
「先生、先生!」
 クラスの生徒が騒ぎ立てる。
「聞こえねぇのか!」
「た、助けてぇ」
 か細い声が、扉の外から聞こえてくる。
 途端にクラスが静かになる。
 アキナが気付く。

 亜夢は中谷から借りていた干渉波キャンセラーを頭につけた。
 そうしてスマフォを耳に持っていくと、ヘッドフォン型のキャンセラーにぶつかってしまうことに気づく。
「えっ? 何これ使えない」
 キャンセラーの片耳をずらしてみる。
 効果は十分ではないが、しないよりずっと快適だった。
「中谷さんに改善してもらおう」
 亜夢はスマフォから『奈々』を探し出し、電話をかけた。
「もしもし」
『あ…… あっ、亜夢っ!』
 亜夢は奈々が急に大声を出した瞬間、少しスマフォを耳から離した。
『どう、帰れそう?』
「すぐには帰れそうにはない。捜査内容はとかは言えないから、あれなんだけどさ」
『こっちは大変だったの』
「えっ、何があったの?」
『実はね……』
 奈々が学園であった話を始めた。



 話はその日の午前中までさかのぼる。
 非科学的潜在力女子学園から、亜夢が警察の捜査協力のためヘリで去った翌日の二時限目が始まった。
 奈々はぼんやりと学校の外、正門の方をぼんやりみていた。
『奈々! 奈々! あれ? そうか、奈々はテレパシーを感じないんだっけ』
 アキナはウエーブのかかった髪を後ろに流し、奈々に顔を寄せ、先程とは違い、小さく声に出した。 
「(奈々、奈々っ)」
 奈々は外をみている。
「(奈々! あんた、あてられてるよ)」
 奈々は、全く気がつく様子もなく、まだ窓を向いている。
 すると、ものすごいエンジン音が聞こえてくる。
「八重洲さん。八重洲奈々さん。次を読んでください」
「……」
「(奈々ってば)」
 アキナは机の下で手を伸ばして、奈々の足をつつく。
「(奈々っ!)」
「!」
 奈々は突然立ち上がった。
「先生、軽トラが正門に突っ突っ込んできます!」 
 奈々が言った瞬間、ガラスの割れる音、何かがぶつかった大きな物音がした。
 同時に目撃した、何人かの生徒のテレパシーが、奈々を除く全校生徒に伝わっていく。
「先生! 誰か学園に入ってきました!」
 壊れた軽トラから、男が出てきた。
 衝突したせいなのか、男は少しフラフラしている。
『何か持ってる』
『刃物、刃物もった男が学園に入ってきた』
 生徒が一斉に窓際に集まる。
『やばいって』
「ヤバいやばい、警備の人は?」
『大丈夫、来てる来てる』
『後ろに来てるね、警備の人』
「あっ、あのコ……」
 奈々が声に出す。
 アキナはそれに気づき、テレバシーで送る。
『そこ行っちゃダメ!』
 校舎の影で見えなかったのか、体操着の生徒がボールを抱えて歩いてる。
『へ?』
「危ないから逃げて!」
 奈々の声に反応し、体操着の女生徒はボールを落としてしまった。
 ボールを飛び越しながら、刃物を持った男が女生徒に近づく。
 逃げようと思って振り返ってすぐ、男に追いつかれてしまう。
 羽交い絞めにされ、目の前に刃物を出されて、声も出ないようだった。
 後ろから回り込もうと思っていた警備員は出ていくタイミングを失った。
「おいコラ、そこらへんで見ている奴!」
 教室の方へ叫び始めた。
「亜夢とかいう奴だせや」
「亜夢だって…… あっ、あいつ」
 奈々が思い出した。
 男が奈々の方を見た気がしたので、窓際からすばやく下がった。
 奈々はアキナの袖を引っ張り、言った。
「あいつ、昨日の痴漢男だよ」

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